第200話 護衛対象との顔合わせ

 翌朝、いつになく早い時刻、旅支度を整えたミナト、シャーロット、デボラ、ミオは宿を引き払い冒険者ギルドへと向かっている。今日もグトラの街は素晴らしい秋晴れだ。太陽が眩しく輝いている。


 昨日の午後、冒険者ギルドで受付嬢のフルールから頼まれた護衛の依頼。ミナトはシャーロットと共に宿へと戻ってデボラとミオにも相談した。二人の答えは当然の如くといった具合で『マスターの決定に従う!』だったのでミナトは一人冒険者ギルドを再訪し依頼を受けることをフルールに伝えた。そしてフルールから本日この時間に依頼者である護衛対象の職人達と顔合わせをすることを提案され、承諾してきたのである。


「護衛対象の職人さんってどんな人達だろう?」


 護衛対象はグランヴェスタ共和国の首都ヴェスタニアで工房を営んでいるという。今はまだ職人としか聞いていない。何をしている職人なのかミナトは興味があった。


「武器や防具の職人かしら?」


 シャーロットがそう答えてくる。ルガリア王国王都でグラスなどのガラス製品でお世話になっているガラス工芸家のアルカンとその弟でバースプーン、シェイカーといった金属製品でお世話になっているバルカンは、ドワーフで一流の武器や防具の職人を志すのであればグランヴェスタ共和国の工房で修業をすることが必要と言われていることを教えてくれた。それとダンジョンから豊富な素材が持ち込まれるから宝飾品の職人も多いと。


「ふむ……。こういった移動時間の長い護衛任務は二回目だが、マスターと一緒ということは退屈しない道中になりそうだ」


 デボラがそんなことを言ってくる。前回のアクアパレスまでの護衛の移動では魔物や刺客の襲撃に加えて、シャーロットがとんでもない魔法を行使するということまであった。確かに退屈はしなかったし、様々なお酒との出会いもあったので結果的によい旅だったのだが、そんなことを期待されても困ってしまうミナトである。


「ん!ボク護衛は初めて!頑張る!襲ってくる敵はブレスで一掃!」


 何故かミオまでふんすと鼻息荒く妙に気合いが入っている。ブレスだと襲ってきた盗賊に加えて周囲一帯が消滅してしまうのでそこは程々にしてほしいミナトであった。


 そうこうしているうちに冒険者ギルドへと到着する。ミナトは美女三人を伴ってギルドの扉を開いた。


 ちなみに本日のミナトはいつもの冒険者風の装い、シャーロットも魔導士風のローブに身を包みフードを目深に被っている。魔導士風のローブの下はショートパンツと長袖のニットというなかなかに刺激的な装いだったりするのは秘密だ。デボラとミオはいつもの赤と青の民族衣装風の装いだが、気持ちスカートが長くスリットが控えめな気がする。デボラに言わせると『秋の装いだ!』とのことだ。


 冒険者ギルドはよい依頼を受けたい多くの冒険者が掲示板の前へと集まり賑わっていた。どの冒険者も掲示板に目が行っており幸運にもミナトたちは注目を集めなかった。


「えっと……、フルールさんは?」


 ミナトは視線を彷徨わせる。受付のカウンターも依頼を受ける冒険者で溢れていた。どうしたものかと思っていると、


「おはようございます!ミナトさん!」


 声をかけられた方へ視線を向けるとそこにフルールがいた。


「お出で頂きありがとうございます。ご案内しますね」


 そうしてミナトたちは一階の奥にある会議室のようなスペースに案内される。


「冒険者パーティの皆さんをお連れしました」


「おう!」


 フルールの言葉に野太い声が返された。


「こちらF級冒険者のミナトさんとそのパーティーメンバーの方々です」


 そう紹介されたミナトが会議室に入るとそこには三人のドワーフがいた。一人は先程のフルールに応えたドワーフ。三人の中で明らかに最も年嵩のドワーフだ。どうやらこのドワーフが工房の主なのだろう。後の二人、一人は少年、もう一人は少女と言えるほどに若い。恐らくは弟子というか見習いなのかもしれないとミナトは思った。


 ミナトは三人のドワーフに名乗り、シャーロット、デボラ、ミオの三人を紹介した。


「うむ。F級冒険者パーティと聞いてはいたが魔力持ちとは只者ではないようじゃな?」


 そう言われてミナトは少しだけ目を細める。どうやらこのドワーフは魔法が使えるらしい。魔法を使える者同士は近くにいれば互いの魔力を感じることができる。もちろん隠蔽することも可能だが……。


「はっはっは!気に入ったぞ!流石は冒険者ギルドが保証するだけのことはあるわい!」


 そう言って満足そうに豪快に笑う。悪い人ではないとミナトは感じる。


「儂の名はグドーバル!首都のヴェスタニアで武具工房を営んでいる者じゃ!こっちのは見習いのケイヴォンとリーファンじゃ!此度の護衛よろしく頼む!」


 グドーバルと名乗ったドワーフが二人の見習いを紹介し、ミナトに右腕を差し出した。グドーバルの背後で若い二人のドワーフがペコリと頭を下げる。


「こちらこそ、宜しくお願いします!」


 そう言ってミナトも右腕を差し出し握手を交わす。首都ヴェスタニアを目指す護衛の旅が幕を開けるのであった。

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