第180話 いつか手に入れたいお酒
「相変わらず見惚れるような所作よね…」
「うむ。流石だ!」
「ん!カッコいい!」
「これがスキルではないとは…、俄かには信じられません…」
シャーロット、デボラ、ミオ、そして人の姿となったフェンリルの四人が感嘆の声を上げてくれる。そして、
「頂くわ」
「頂こう」
「ん、頂きます」
「頂きます」
琥珀色のカクテルで満たされたロックグラスを手に取るとそれぞれの口へと運んだ。
「…美味しいわ…。燻り酒の香りと味に
「見事だ…。燻り酒の香りというのは特徴的なものだがそれに甘さを加えながら素晴らしい一体感を作り出している。燻り酒のロックとは違ってゆっくりと楽しみたくなるカクテルだな…。カウンターでこれを傾けつつゆったりか…。これはいい飲み方を教わったものだ…」
「ん!ボクは燻り酒そのものよりこっちの方が好み!」
「燻り酒はこの姿で街に行ったときに飲んだことがあります。その味を活かしつつ、この素晴らしい甘さと香りを上乗せする…。これがカクテルですか…。お酒とお酒を混ぜる…。こんな見事な手法があるのですね…」
ラスティ・ネイルは四人の美女たちから好評のようだ。
「まだこの世界のウイスキー…、燻り酒は一種類しか手に入れていないけど、前の世界には蒸留所の区別だけでなくブレンドや貯蔵法まで含めると数えきれないくらいの種類があったんだ。ラスティ・ネイルは使うウイスキーの特徴でその味わいが結構変わるからどのウイスキーを使うのかを考えるのが楽しかったりしたんだよね…」
この世界でミナトが手に入れたウイスキーはガルガンディアと呼ばれる一種類のみ。ドワーフがよく使う商会をアルカンとバルカンに紹介してもらいそこから仕入れたものだ。ラベルは大きな夕日が描かれている。なんでも燻り酒は酒造りを専門に行うドワーフの工房で造られており、その工房ごとに味が違うらしい。ガルガンディアはウイスキーの中ではいわゆるピート香やヨード香が強い特徴的なものである。現在の王都で恒久的に仕入れることができるのはガルガンディアだけとのことだった。時折、他のウイスキーも入荷するとのことでその時は味見をさせてもらう約束を商会とはさせてもらっている。当然のことながらウイスキーの種類は増やしたい。
ちなみにミナトはシャーロットたちのようなウイスキーが飲める女性には是非シンジケート58/6を使ったラスティ・ネイルを造ってみたいと思っている。この世界のガルガンディアも力強くて美味いウイスキーだが、いつの日か優雅とかエレガントといった言葉で形容されるシンジケート58/6のようなブレンデッド・ウイスキーも見つけてみたいミナトであった。
「燻り酒と言ってもその味わいが異なればラスティ・ネイルの味わいが変わる…。それって面白いわね!」
「うむ。様々な燻り酒か…。実に興味深い…」
「ん!ボクも自分の好みの味というのを探してみたい!」
シャーロット、デボラ、ミオがそんなことを言ってくる。
「ミナト!いろんな燻り酒が手に入るといいわね?」
「ま、焦らずゆっくり探していけたらとは思っているよ」
笑顔のシャーロットに自身も笑顔となってそう返すミナト。その傍らで…、
「私…、感動しました…。こんな貴重な経験ができるなんて…」
そんな呟きが聞こえてきた。人化の魔法を使って人の姿となったフェンリルがラスティ・ネイルを飲み干している。どうやら
「それはよかった…、………って、どうしたの?」
思わずミナトが尋ねる。その視線の先にいたフェンリルが跪いたのだ。
「えっと…?」
状況が分からないミナト。その前には跪いて首を垂れる人の姿をしたフェンリルがいる。
「ミナト様!感服しました…。貴方様の【闇魔法】の力とそのカクテルを造る技量…、シャーロット様、デボラ様、ミオ様と共にあるその姿は我が主に相応しい…」
「はい?」
思わず聞き返す。なにやら凄いことを言われたような気がする。
「ミナト様に私の生涯にわたる忠誠を捧げたく思います!」
「凄いことだった…」
思わず心の声が漏れるミナト。見ればフェンリルの全身が淡い光に包まれるのであった。
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