第174話 魔物と遭遇…、だけじゃなかった

 オルフォーレの街の郊外にある森で魔物を探して歩みを進めていたミナトがふと足を止めた。巨大な魔力の反応を感じたのだ。これが恐らく雷を纏った四足歩行の魔物だろう。


「これって…。この反応…、この魔物強くない?」


 思わずシャーロットたちの方へ視線を向けて聞くミナト。


「そうね…。世界の属性を司るドラゴン程ではないけれど、ここまでの魔物だと人族や亜人では手に負えないと思うわ。私たちが来て正解よ」


「ふむ…。我らの後をついてきている冒険者どもでは相手にならんな…」


「ん。あの連中ではムリ!ついてきているのはキケン!」


 三人ともこの先にいる魔物が自分たちほどではないが強いことを感じているらしい。


「とりあえずもう少し近付いてみようか?依頼内容は調査だからね」


「いいわよ!気を付けてねミナト!」


「うむ。我はマスターに従うぞ!」


「ん。同意!」


 三人から同意を貰うとミナトはさらに歩みを進める。しばらくすると木々が少ないところにでた。そこにいた魔物とは…、


「デカい…、そしてキリンじゃなかった…。真っ白い…、犬…?オオカミ…?」


 ミナトの眼前には体高が五メートル程にもなる犬型の魔物がいた。毛並みは見事なまでの純白。神々しさが溢れている。


「人族の者よ!この私のどこを見ればあの首の長い動物になるのだ?それに私は動物ではなく魔物だ!ちなみに犬ではない!私はオオカミの魔物だ!それについてはプライドがある。そこは間違えないでもらいたい!」


「しゃべった!?」


 ミナトは驚く。言葉を操る魔物にここで出会うとは思わなかった。デボラやミオといったこの世界の属性を司るドラゴンはこの世界で最高位クラスの魔物だから分からないでもないが、視線の先の魔物はそんなドラゴンたちに近い存在であるらしい。


「うん?言葉を操る魔物に会うのは初めてか?私も人族と会話するのは久しぶりだ。私の姿を見たここ最近の冒険者は大慌てで逃げて行ってしまったのでな」


 随分と気さくに話しかけてくる魔物である。ミナトは魔物に敵意を感じなかった。どうやらここにいる原因に関しては聞けば教えてくれそうである。


「よかった…。シャーロット、どうやら話の分かる魔物みたい…、あれ?いない?」


 敵対する必要はなさそうだったので安堵してシャーロットの方に向き直ったミナトの視線の先にシャーロットの姿がない。


「デボラ?ミオ?」


 二人がいた方を振り向くが、


「いない…。この展開って…」


 これまでにもこのようなことが二回ほどあった。あまり良い思い出ではないのでミナトの額からジワリと冷や汗が流れる。


「ところで人族の者よ」


 戸惑うミナトに白狼が声をかけてくる。


「何でしょう?」


 戸惑っている筈なのに落ち着いて返すミナト。


「ふむ…。私のこの姿を前にしてそこまで落ち着き払うのは中々なものだ…。まあそれはよいとして、人族の者よ、そこの樹の陰に潜んでいる冒険者はお主の仲間か?」


 そう言われて確認するとケヴィンとかいう冒険者とその仲間が潜んでいるのが分かった。


「いや、完全に他人だ!」


 これもまた落ち着いて返すミナト。【保有スキル】の泰然自若が今日もいい仕事をしているらしい。


【保有スキル】泰然自若:

 落ち着いて、どの様な事にも動じないさまを体現できるスキル。どのようなお客様が来店してもいつも通りの接客態度でおもてなしすることを可能にする。


 ミナトが否定した瞬間…、風切り音と共に、


 カンッ!


 飛んできた一本の矢が魔物の頭部に当たって落ちた。白狼の魔物は微動だにしない。ダメージは皆無のようだ。そりゃそうだろうとミナトは思う。


「人族の者よ、私としては…」


 白狼の魔物がミナトに何かを言い始めたとき、


「ハハハハ!感謝しろよF級冒険者!限りなくA級に近いと言われているこのケヴィン様が貴様を助けてやる!」


「この魔物の毛皮は金になるぜ!」


「ヒヒヒ…、金のなる木が目の前に…」


「F級風情はここまでだ!あとは俺達上級冒険者のターンっつうやつだぜ!」


 ケヴィンたち一行が登場した。パーティは四人。他に隠れている者はいないようだ。ケヴィンともう一人の大柄な男がおそらく前衛。矢を放ったであろう弓を装備した斥候らしき者と僧侶のような装いの者がいる。そんな連中を前にしてミナトは困った表情を浮かべた。


「こいつら何を言っているんだ?」


「それはこっちの台詞なのだがな?」


 ミナトの呟きを受けて白狼がそう返してきた。やっぱり話せる魔物らしい。どうやらケヴィン達のパーティは無謀にもこの白狼の魔物を狩る気のようだ。昨日は逃げ出したと聞いたのだが、F級冒険者のミナトが普通に話しているのを見て対して強くない魔物と認識したのかもしれない。大間違いだが…。しかし白狼の魔物を狩るにしてもその立ち位置が妙だった。


「もしかしておれもどうにかする気かな?」


 一応、ミナトは確認する。どう考えてもミナトと白狼の魔物を相手取るような形でパーティが武器を構えていたのだ。


「分かっているじゃねえか!F級冒険者!お前はここで魔物に殺された!あのねーちゃんたちは俺達がじっくりたっぷり可愛がってやるから安心しな!」


 さっきまでシャーロットたちの姿があったはずなのだが、気付いていない様子でそんなことを言ってくる。


「人族の者よ?この連中はお主にとっても敵ということで間違いはないか?」


「どうやらそうみたい…。はぁ…」


 大きくため息をつくミナト。全く恐れていない様子にケヴィン達の表情が歪む。


「とりあえずはこの者達をどうにかしてから私の話を聞いてもらうことにしようと思うが其方はそれで問題ないか?」


「分かったよ…。ところでケヴィンだっけ?」


 白狼の魔物に答えたミナトは視線をケヴィンへと向ける。


「逃げるのなら今だけど?おれは手加減できると思うけどこっちの魔物さんはきっとそういうの苦手そうだよ?」


【保有スキル】泰然自若が効いているのか落ち着き払っているミナトが忠告する。


「バカにするのもいいがそんな様子じゃ簡単には死ねなくなってしまうぜ?」


 ケヴィン達が引くことは金輪際なさそうだ。それを感じてミナトは今一度大きなため息をついたのだった。

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