第172話 ギルドマスターの登場

「あたしのギルドで揉め事は許さないよ!!」


 ミナトがテンプレの如く絡んできた冒険者を【闇魔法】の堕ちる者デッドリードライブでヘロヘロにしてやろうと考えたとき、先のセリフと共に一人の女性が割り込んできた。ギルド職員と同じような装いだがその制服を着崩している。年齢は五十前後と言ったところか…。


「ちっ、マスターか!久しく見ねえ上玉なんだ!邪魔してんじゃねえ!」


 どうやらこの女性がオルフォーレの街にある冒険者ギルドのマスターらしい。そう言えば王都の冒険者ギルドマスターなる存在にまだ会っていないと思うミナト。


「黙りな!ケヴィン!あたしはお前を助けるために来たんだよ!この子たちミナトたち一行にお前らの命だけは勘弁してくれってね!!」


「ああ!?」


 ケヴィンと呼ばれたシャーロットから臭くて汚くてムサい男認定された男とその仲間たちが不快な表情を浮かべて色めき立つ。だがギルドマスターはその連中を無視してミナトの正面へと立つ。


「あんたがミナトかい?」


「…そうですけど…?」


 唐突に名前を呼ばれて戸惑うミナト。何故か彼女はミナトを知っているらしい。


「よかった…。王都にいるカレンから連絡があってね。受付嬢には伝えていたんだ」


 ここでカレンの名前が出るとは思わなかった。どうやらオルフォーレの街にある冒険者ギルドのマスターと王都の冒険者ギルドで受付嬢をしているカレンさんは知り合いらしい。


「カレンさん…?えっと…、カレンさんとはどういう…、じゃなかった…、カレンさんからはなんて…、ど、どんな連絡が…?」


 驚きながらも尋ねるミナトにギルドマスターがニヤリと笑う。


「あんたらがきっとに巻き込まれるから相手を助けてくれってね」


 その答えにミナトは渋い表情となる。いろいろと見透かされているようだった。


「おっと自己紹介がまだだったね。あたしはここのギルドマスターをしているリコってもんだ。この街を中心に活動していてね。これでもA級までいったのさ。そして引退後にここのギルドマスターになったって訳だ。カレンはあたしが現役の時にこの街で受付嬢をしていたことがあってね。それ以来の付き合いだよ。そんなカレンから特急の連絡が来たのさ。ちなみに冒険者ギルドだけが使える特殊な連絡手段でね。内容はとびっきりの美女三人を連れた冒険者がうちを訪れる可能性がある。率いている男について見た目は普通だけど、マジでヤバい奴だから気をつけろだってさ!階級を鵜吞みにしたら地獄を見るとも書いてあったかな?念のため言っとくがカレンはもっと丁寧な文章で書いてはいたぞ!ただカレンが冗談でそんな連絡をする訳がない。だから受付嬢にとびきり美人の三人を連れた冒険者が来たら知らせろって言っておいたのさ!案の定、カレンの言った通りの展開になったって状態だ!」


 それを聞いたミナトは項垂れる。


「それはお手間を取らせました…。申し訳ありません…」


 とりあえず謝罪した。そしてカレンさんの心遣いに感謝する。今度お店に来てくれたらカクテル一杯をサービスしようと決めていた。


「その様子だとこいつらをボロ雑巾にすることは止めてくれたようだね?よかったよかった…」


 騒動を起こしたことを素直に謝ったミナトの様子にギルドマスターのリコは安堵したようだ。…もう少しでケヴィンという冒険者とその仲間をボロ雑巾のようにするところであったことは言わない方がいいかもしれない。ミナトは少しだけ冷や汗をかいた。苦虫を噛み潰すような表情をしているケヴィン一行のことは無視である。


「よかったついでにミナト!あんたたちのパーティに頼みたいことがある。ちょっとあたしの部屋まで来てくれないか?」


「それは?依頼ということですか?」


 これもまたテンプレ的展開だと思いつつミナトは確認してみた。


「ああ。あんたらが魔物の討伐で大した実績を上げているとカレンが言っていたからね。あたしはカレンの言うことは信じるに値することを知っているからね。丁度とある魔物の調査依頼があるのさ。それを…」


「おい!マスター!そりゃあ!俺達が受けた依頼だろうが!こんなひ弱でちんけな野郎と美人なだけのねーちゃん達に何が出来るっつーんだ!!」


 ケヴィンと言われた冒険者が声を荒げて言ってくる。ギルドマスターのリコはケヴィン達に冷たい視線を向けた。


「何を言っているのさ?正確にはあんた達が失敗した依頼だろ?今日の調査に失敗してもう調査に行かない…、つまり失敗だ。そう報告が上がっていたからあたしはミナトたちパーティに頼むのさ」


「だからって…」


「うるさいね…。だいたい…」


「………」


 ケヴィンが食い下がりそれをギルドマスターがあしらうやり取りが続いているが、ミナトはというと…、


『ミナトがひ弱でちんけ…?ミナト!私、あの男に魔法を使うわ。その存在を魂のひとかけらまでもきれいさっぱりと焼き払ってみせるから見てて!』


『待って!待って!シャーロット!それってデボラから聞いたヤバい魔法だよね!?それはちょっとやってはいけない気がする…、おれのことはいいから一回落ち着いて…』


『ふふん。我のことのみならいざ知らずマスターのことまで…。マスター!ここは我が真の姿となって本気のブレスでこ奴らを一掃してくれるわ!!』


『ん!ボクもそうする!!』


『デボラ!?ミオ!?ストップ!ストーップ!!おれは大丈夫だから!気にしていないから!それよりもこの街にレッドドラゴンとブルードラゴンが現れたら大混乱だから。きっとルガリア王国だけじゃなくてなんかグランヴェスタ共和国にも影響しそう。それだけじゃなくてなんか神格化されて何かの逸話になってしまいそう!』


 三人を宥めるのに全力を注いでいた。


 疲れきたミナトがシャーロットたち三人と共にギルドマスターの部屋に案内されたのは少し後になってからのことである。とりあえずミナトが必死に説得したためオルフォーレの街は地図から消滅することもなく今日も一日平和であった。

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