第171話 久しぶりでお約束な展開が…
オルフォーレの街が秋の夕日に照らされる。昼食に満足したミナトたちはゆっくりとした足取りで冒険者ギルドへと向かっていた。今日中に冒険者ギルドへ行き明日はグランヴェスタ共和国を目指して山脈越えに出発する予定である。
どうして冒険者ギルドを訪れる必要があるかと言えば道中の情報収集であった。王都の冒険者ギルドで受付嬢をしているカレンさんに地図と山脈を越えるための情報は得ていたが、最新の情報があるかもしれないからとカレンさんに提案されていたのである。
「いやー、美味かった…。ちょっと食べすぎたかな…?」
上機嫌でミナトが言う。
「うーん!満腹満腹!」
「素晴らしい昼食だった!」
「ん。この街に来てよかった!」
シャーロット、デボラ、ミオの三人もキノコ料理とワインの組み合わせに満足したらしい。秋になったらこの街に来てキノコを手に入れたいと思うミナトであった。
冒険者ギルドは簡単に見つかった。王都の冒険者ギルドよりは小規模な建物だが看板にはしっかり冒険者ギルドと書いてある。冒険者ギルドの横には酒場が作られており既に飲み始めている冒険者もちらほら見かけるが、混んでくるのはもう少し後だろう。
とはいえホールにいる数人の冒険者達の視線はシャーロットたちへと釘付けになる。そんなことを気にしていないミナトは三人を残して受付嬢のところへ、シャーロットたちは暇つぶしに依頼の掲示板を見てくるようだ。
王都の冒険者ギルドでも大体そのような感じで行動していたのでそれが習慣のようになってしまっていた。ここはルガリア王国オルフォーレの街にある冒険者ギルド。王都の冒険者ギルドではない。そのことをミナトたちは忘れていた。
「姉ちゃん!三人パーティか?こりゃあ今日は運がいい!どうだい?俺達と飲まないか?」
二メートルほどの背丈に無精ひげを生やした冒険者がシャーロットたちに絡んできた。
シャーロットは最高の美貌を誇るエルフ。デボラやミオは人族の姿を取っているが二人そろって最高級の美女である。そんな存在が冒険者ギルドに現れたのだ。絡んできた冒険者の反応が普通と言っていいだろう。ちなみに現在の王都にある冒険者ギルドでこのような馬鹿な行いをするものは皆無である。ギルドを訪れた初日にB級冒険者であるダミアンを叩きのめしたことや、日々狩ってくる魔物のことが冒険者達に知られているからだ。
「飲むだけじゃ勿体ねぇ!!女三人じゃ人恋しくて寂しいだろ?今夜は俺達が一晩中たっぷりと可愛がってやるぜ?がはは…」
下卑た笑いを含みつつ言ってくる。
「相手なら間に合ってるわ。私臭くて汚くてムサい男は趣味じゃないの」
この手の相手にシャーロットはかなり冷たい対応をする。よく通る美しい声でハッキリと拒絶した。
「シャ、シャーロット様?このゴミ…、ま、まさか本気で…?本気でシャーロット様を自由にできると…?」
デボラが信じられないといった様子でシャーロットに問いかける。話しかけてきた冒険者の顔が歪むが三人は歯牙にもかけない。
「そうみたいよ。あーあ、王都のギルドではこんなことなかったのだけれどね…」
呆れたようにシャーロットがデボラに返す。
「し、信じられん…。これほどひ弱で魅力などの欠片もないダメな雄がシャーロット様を…?何かの冗談なのか…?」
デボラはどうしても信じることができないらしい。
「ん。デボラ、このゴミは真面目に言っている…、つまり愚者でクズ」
そんなデボラにミオが冷静に説明する。二人ともシャーロット同様こういった手合いへの反応は冷たい。ちなみに王都にいる一部の特殊な冒険者からは『彼女達に罵ってもらいたい!』という要望が上がっているらしい。
シャーロットたちに相手にされないどころかゴミでクズで愚者でひ弱でダメな雄と言われた冒険者の表情にははっきりと怒りの感情が現れた。
「ねーちゃんたち!あんまり俺らを舐めるなよ!この街で俺達に逆らったらどうなるか…」
とても分かりやすい反応をする冒険者。酒場からこちらを覗いていた男の仲間たちも集まってくるようだ。その時、
「お待たせ!最新の地図と出現する魔物の情報を教えて貰ったよ!これで明日は大丈夫!」
全く危機感のない呑気な声でミナトがそんなことを言いつつ受付から移動してきたのだった。周囲の視線がミナトへと集まる。
「はい?」
そう言ったミナトがシャーロット、デボラ、ミオを見た後、近くにいる冒険者を観察する。
「シャーロット?えっと…、絡まれていた?」
「うーん…、そんなところかしら…?でも私たちはぜんっぜん相手にしていなかったのだけれど…」
冒険者を全く気にすることなくシャーロットと会話するミナトの余裕な様子を気に入らなかったのか、シャーロットに絡んできた冒険者がミナトの胸ぐらを掴もうとするが、
「待ちな!」
背後から鋭い声が飛んできた。冒険者が思わず動きを止める。そのためミナトはとりあえず冒険者を【闇魔法】でぶちのめすことは止めておくのであった。
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