第170話 秋の味覚と【収納魔法】

「これが相性というやつだ…。美味い…!」


 ワイングラスを片手にミナトが感動している。


「これはたまらないわね!朝まで飲んでいられるというやつだわ!」


「この料理というものは人族や亜人らの偉大なる発明だな!そしてこのワイン!止まらないぞ!」


「ん。最高!」


 シャーロット、デボラ、ミオの三人も盛んにセップの網焼きを頬張ってはワインをグイっと飲んでいる。クルミ油を塗られてアツアツに焼き上げられた薫り高いセップ。程よい酸味と花のような華やかな香りが立つ白ワイン。その組み合わせが美味しくないわけがない。


 四人前。山と盛られたセップ網焼きがどんどんとその量を減らしているとき、


「こちらセップの肉詰めでございます!」


 店員の明るい声と共に第二の料理が到着する。鷹が冷静に獲物を狙うときと同じ目になった四人は無言でフォークを操り、先ずは一口食べてみる。


 ミナトは再度驚いた。大好きな味である。大ぶりのセップを傘と柄に切り分け、柄の部分は細かくみじん切りにし、ひき肉と香辛料と香味野菜のみじん切りを加えて混ぜたものをピーマンの肉詰めのごとく傘の部分に詰めて焼き上げた料理だ。


 最初の網焼きはシンプルにセップの味、香り、食感を感じることができる料理であったが、この肉詰めはさらに肉の旨味が重なることで網焼きとは異なる重厚なハーモニーを奏でている。


「肉の種類までは分からないけどこれも美味い…。今日はいい日だ…」


『『『…………!』』』


 ミナトの言葉に賛同と料理を絶賛する感情が大量の念話となって飛んでくる。美女三人は言葉を発するよりも料理を味わうことを優先したらしい。網焼きに続いて肉詰めも白ワインと共にどんどんと消費されるのだが、


「みんな!もう一回ストップ!」


 ミナトが再び美女たちの行動を制した。


「ミナト?」


「マスター?」


「ん?」


 三人の顔に再度の疑問符が浮かぶ。そんな三人にミナトは一本のボトルを【収納魔法】の収納レポノで取り出した。


これ肉詰めにはも合うと思うんだ!」


「「「おおおおお!」」」


 そのボトルに三人が歓声を上げる。それはブルードラゴンの里で造られた最高の赤ワイン。セップの香りに肉の旨味が重ねられたこの料理。白ワインも当然のごとく合うのだが、赤ワインとの相性を確かめずにはいられなかった。


「とことん楽しむ気ね!付き合うわ!」


「マスター!その判断は英断だ!大いに楽しもうではないか!」


「ん。マスター!もう一度、グッジョブ!!」


 新しいワイングラスを収納レポノから取り出しさらに盛んに飲み食いを進めるミナト、デボラ、シャーロット、ミオの四人。


「お待たせしました!ジロルのバター炒めです!」


『ジロルもジロルだった…』


 ミナトのそんな心の呟きは誰も気にすることはなく。セップとはまた異なる華やかな香りを纏ったバター炒めの登場に美女たちのテンションは最高潮になるのであった。


 そんな楽しい食事がひと段落し、皆が優雅に残りのワインを傾けていると、


「それにしてもミナト!その【収納魔法】、すごかったわね?」


 そうシャーロットが言ってきた。


【収納魔法】収納レポノ

 時空間に作用し、アイテムの収納、保存を可能にする術者が管理できる亜空間を作り出します。アイテムを出し入れするゲートは術者を中心とした半径二メートル以内で任意の場所に複数を設置可能。時間経過なし。意思・意識のある生物に関しては収納に本人の同意が必要、ただし亜空間内は快適ではないのでご注意を。亜空間はとても大きいのでご自身でのご確認をお願いします。ちなみにゲートから武器を射出するような運用も可能だったりします。かなりの威力です。攻撃もできた方がカッコいいでしょ?


 その内容量の上限は未だ分からないが、説明文に載っていたこの魔法の攻撃方法…、こちらも想像以上にヤバい性能であった。


 確認のため投げナイフを百本購入して放り込んでおいたのだが…、まず対峙した魔物がミナトを中心として半径二メートル以内にいる場合、完全に魔物の死角から攻撃が可能である。問題なのはミナト本人には収納レポノを使用したことによる魔力の反応があるが、投げナイフが発現する場所には魔力反応が存在しなかったことだ。魔力反応どころか音すらも発生しない。つまり半径二メートル以内という制限があるが、どこから収納物が発現するのかミナト以外は感知できないということである。ちなみに目視による射程距離はおよそ百メートル。威力はシャーロットの見立てで土魔法レベル六クラスのストーンバレットと大差がないとのことだ。


「間違いなく暗殺と殲滅に使える技よね?」


「確かに!我にも魔力が感知できないとはな…。弓矢に比べても威力が桁違いだ…」


「ん。飛ばすものが魔力を纏っていない場合、うまく感知できない…」


 初めて見たとき、三人は大いに驚いていた。聞いてみるとこの世界には投石器といった攻城兵器の類を除けば、飛び道具というと投げナイフと弓矢くらいしかない。魔法が使える者は魔法を用いるということだ。スリングショットや銃は存在しないため魔力を感知しない強力な遠距離攻撃は知られていないということであり、不意を衝くことができるかなり有効な攻撃手段だということだった。


「魔法を使う者は魔力と攻撃魔法には敏感に反応できるけど、こういった攻撃には多分無力。どうするの魔王様?これだともう敵が存在しないわよ?」


 シャーロットがニヤっと笑ってグラスを掲げる。


「ここはどうしようもなく最強の魔王が降臨したことと素晴らしいキノコ料理に乾杯だな!『くくく…』」


「ん。世界の趨勢すうせいは魔王様の考え次第!だけどこの料理は残してほしい!『うふふ…』」


 デボラもミオを大真面目にそう言ってグラスを掲げるが心の中で漏れ聞こえる念話から笑いを我慢しているのがバレバレである。


「違うから!何もしないし魔王は名乗らないから!今日はこの美味しい料理に乾杯だ!」


 釈然としないミナトだが美味しかったキノコ料理に敬意を表してグラスを掲げるのであった。

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