第167話 グランヴェスタ共和国の話を聞こう
「あん?グランヴェスタ共和国じゃと?」
「依頼かの?それとも何か欲しい武器や防具でもあるのか?」
週が明け火の日となりミナトはBarを開店した。するとグラスなどのガラス製品でお世話になっているガラス工芸家のアルカンとその弟でバースプーン、シェイカーといった金属製品でお世話になっているバルカンが二人そろって来店した。今日のアルカンは燻り酒ことウイスキーのロック。バルカンはカクテルでウォッカアイスバーグである。そんな二人にミナトはグランヴェスタ共和国について聞いたところ返ってきたのが先の答えである。
この早い時間帯はミナト一人で対応している。まだシャーロットたちにはグランヴェスタ共和国のことは話していない。二人からの話を聞いてから今後どうするかを決めようと考えたミナトであった。
「冒険者ギルドでは農耕が盛んでさらに鉱山系のダンジョンが豊富であることから宝飾や武器製造で有名な国って聞きましたが…?」
ミナトの問いに二人は頷く。
「うむ。その通りじゃ。儂らドワーフで一流の武器や防具の職人を志すのであればあの国の工房で修業をすることが必要などと言われているかの…」
アルカンがそう答える。
「そうじゃな…。箔という訳ではないがあの国で修業した者とそうでない者では武器や防具の性能に差が出ると言われておる。ダンジョンから豊富な素材が持ち込まれるから宝飾品の職人も多い。何じゃ?嬢ちゃんたちに指輪でも探そうというのか?」
ニヤリとするバルカン。それは良い考えだと素直に思うミナト。異世界で生きるのと想像以上の冒険に気を取られて、まだそういった贈り物をしたことがなかった。この世界に婚約指輪や結婚指輪という習慣はないらしいが男性が女性に何かを贈る習慣自体あるらしい。
「それはいいですね…、ってそうではなくてですね…」
元の世界とは異なる二十一歳の容姿に引きずられた慌てるリアクションにニヤニヤする二人のドワーフ。こういったやり取りも既に日常である。
「私が聞きたかったのはエールというお酒についてなんです」
ミナトが本題を切り出した。
「エールじゃと?ははぁ…。ミナト殿は新たな酒を探しておったのじゃな。エールか…、エールはあの国のドワーフにとっては日常的に飲む酒じゃ。儂も若い時分にあの国を訪れたときに飲んだことがある。結局のところ儂は燻り酒の方が好みであったのじゃが…。不思議とあの国のドワーフはエールを好んでおった。なぜなのかは儂には分からんがな」
アルカンの話は冒険者ギルドでカレンさんから教えて貰った内容と一致する。そのエールを一度は飲んでみたいとミナトは考える。
「ミナト殿はエールを探しに行くのか?儂はまたあの国にある世界最難関ダンジョンの一つである地のダンジョンに挑戦するのかと思ったわ!火のダンジョンにも潜ったのじゃろ?」
バルカンの言葉にミナトがピクリと反応する。地のダンジョンが存在するのであればそこにいるのは…、
「いいわね!それ!」
ミナトがバルカンに答えるよりも先に可愛らしい声が店内に響いた。まだ他の客がいないので迷惑にはなっていない。いつの間にかシャーロットがミナトの傍らに立っていたのだ。
「いらっしゃい!アルカンさん、バルカンさん」
シャーロットが素敵な笑顔でドワーフの二人に挨拶しお通しとなる小皿に用意したナッツの盛り合わせを差し出した。グラスを掲げて挨拶するアルカンとバルカン。シャーロットは濃紺に染められた綿製のパンツにリネン生地製のゆったりとしたベージュのブラウスを纏い、パンツと同じ色のエプロンを付けている。言うまでもなく今日も非常に美しかった。
『ミナト!いいじゃない!この時代あるグランヴェスタ共和国がどんな国かはよく知らないけど、地のダンジョンには行きましょう!』
うきうきと嬉しそうな念話が飛んでくる。
『シャーロット…?理由を聞いてもいいかな?』
そんなミナトの問いにシャーロットがドヤ顔で宣言する。念話でだが…。
『アースドラゴンに会うためよ!あなたは魔法攻撃に関しては間違いなくこの世界の頂点の一人だわ。だけど防御に関しては普通の人族でしょ?
これまでもシャーロットはミナトの防御面について心配するところがあった。アースドラゴンに会えればその辺りが解消するかもしれないという。
『なるほど…。それは会いに行ってもいいかもしれないね…。そう言えばドラゴンってお酒を造っているって言ってたけどアースドラゴンは何を造っているのかな?』
ミナトの問いにシャーロットが首を傾げてみせた。
『そう言えば私もそれは知らないわね…。それも行って確かめることにしましょう!』
既にシャーロットはグランヴェスタ共和国へ行くことに乗り気のようだ。
「何を見つめ合っておるのじゃ?」
「相変わらずお熱いのう…。仲が良いのはよいことじゃ!」
念話で話していたのを知らないアルカンとバルカンがニヨニヨとした表情で言ってくる。
「地のダンジョンの周囲は鉱山系のダンジョンや温泉街があっての…。いわゆる観光名所というやつになっておる。一見の価値はあると思うぞ!」
「儂も若いころに立ち寄ったがなかなかによい場所であったな…」
二人の言葉にミナトもこれまで以上に興味が湧いてきた。温泉!温泉とは日本人にとって絶対不可欠な必須項目。異世界の温泉にシャーロットたちと…。思わず想像してしまい……、………と、とりあえず行ってみたいことに間違いはない。
エール、アースドラゴン、そして温泉。ミナトはこの秋、本気でグランヴェスタ共和国へ行くことを検討することに決めたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます