第163話 依頼事項は突然に

 シャーロットの指摘を受けて壮年の男性客が絶句する。彼女が何かしたのだろう。彼の目に集まっていた魔力が霧散するのをミナトは把握していた。


「シャ、シャーロット殿…?あ、あなたはこやつの魔力が感知できるのか?」


 どういう訳か分からないが、驚愕の表情でモーリアンがそう聞いてくる。その隣に座っていたロナルドも何故か同じ表情となっていた。


「簡単なことよ。この店の従業員なら全員が感知できるわ。ミナトも気づいていたでしょ?」


「まあね…」


 シャーロットの言葉になんのことはないといった風に同意するミナト。モーリアンとロナルドの表情が驚愕の度合いを深めた。そんな二人を気に留めることもなくシャーロットは壮年の男性客に視線を向ける。


「………どうやらステータス鑑定をする魔眼のたぐいね。魔眼の中では比較的よくある種類のものだわ。だけどステータスは重要な個人情報。たとえ王族であっても勝手に他人のステータスを見る権利などない筈よ。感心しないわね…、あら…?これって…」


『感心しない』という不穏な言葉の後、シャーロットが何かに気付いたような素振りを見せたが、それを遮ってモーリアンが口を開く。


「シャーロット殿!許可なく魔眼を発動したことについては儂から詫びる。こやつは目を十全には使いこなせておらんのじゃ。シャーロット殿の見立て通りこやつの魔眼は相手のステータスを看破する。現在はこやつの立場と常人にはその魔力を感知されないことから多少の役には立ってはいるが…」


「一族に強い魔眼が発現した場合、その者は長くは生きられない…、かしら?」


 シャーロットがこともなげに返した言葉…、その言葉を聞いたモーリアン、ロナルド、壮年の男性客、その全員が驚愕の表情となる。


「な、なぜ…、それを…」


 口をパクパクさせるモーリアン。そう言うのが精一杯のようだ。


「私たちからしたら簡単に分かることよ?ね?デボラ?ミオ?」


「うむ。血縁の全てに発現するわけではないようだが、これは人族にはよろしくないであろうな…。おそらく魔眼を授けた術者が未熟であったのだろう」


「ん。術者が魔眼の力を最初の個体に留めておけなかった。力の制御も不十分だから大きく発現したら人族では耐えられない」


 いつの間にかデボラとミオも姿を見せシャーロットに同意する。


『これって王家の秘密とかってやつじゃないかな?』


『そうかもしれないわね。でも私たちにはあまり関係がないわ!』


『気にすることもあるまい!』


『ん。気にしない!』


 ミナトの念話にシャーロット、デボラ、ミオがそう返してくる。


「魔眼の効果は属性に関係なく所有者が持つ魔法レベルの最大値に依存するから、あなたの魔眼じゃ私たちのステータスは覗けなかったけどね?」


 こともなげにシャーロットが言い、さらに三人の客を驚かせた。


「シャーロット殿?そこまで分かるということはこの魔眼の呪いを解くことも可能なのか?」


 モーリアンが三人を代表してシャーロットに尋ねる。


「ええ。私もできるけどミオの方が得意かしら?」


「ん。余裕!」


 シャーロットに言われたミオはピースサインと共にドヤっとポーズを決める。とても可愛いと思ってしまうミナト。


「でもあなたは折り合いをつけて生活しているじゃない?」


 壮年の男性客にシャーロットがそう言うが、男性客は立ち上がって頭を下げる。


「頼む…。我の娘を救ってほしい…。この通りだ…」


 必死に懇願する男性。


『そう言う展開か…』


 ミナトがそう思っていると、モーリアンとロナルドの二人もそろって頭を下げた。


「これほど世話になったのにまた手前勝手にこのようなことを頼んでしまい申し訳ない。だが公爵家前当主ではあるが儂にできることがあれば何でもしよう!何とかして頂けないものか?」


「私も…、私にできることがあれば何でもする!私に頂いた慈悲を彼の娘にも与えては頂けないだろうか…」


 まさかこんな展開になるとは…、


『きっとこの人の娘ってことはモーリアンさんやロナルドさんにとっては可愛い孫のような存在だろうね…』


 と思いつつ傍観しているミナト。


「私に言われても困るわね。私はミナトのパートナー。私たちはミナトの指示に従うわ」


「ん。マスターが望むなら…」


 シャーロットとミオにそう返されて貴族三人の視線がミナトに集まった。


『王族…、というかこの人ってもう間違いなくルガリア王だよね…。王様を助けて恩を売って王都での自由な生活を保障してもらう…、これってそんな展開なのかな?でも王家の秘密を共有することになるけど大丈夫かな…、いや大丈夫だ…、これ…』


 心配ないとばかりにニコニコしているシャーロット、デボラ、ミオが視界に飛び込んできたのだ。安心してしまうミナトである。それに彼らは既にお客だ。お客であればできることはしてあげたいと思うミナト。


「私のパーティーに冒険者として依頼を…、ギルドを通すことは難しいかもしれませんが、依頼を出して頂けるのであればそれを受けさせて頂きますよ?」


「「「おお!」」」


 公爵家前当主、公爵家現当主、そして多分王族。その三人は目に涙を浮かべて歓喜するのであった。

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