第155話 まだ終わってはいない
ミナトの掌から漆黒の炎が
「ふぅ…、これで本体にもダメージが入った…」
そう呟いてミナトは呆然と立ち尽くしているウッドヴィル家の三人へと向き直った。
「無事でよかったです…」
ニコリと笑いながらそう言ってくるミナトにモーリアンが辛うじて口を開いた。
「ミ、ミナト殿…?ミナト殿なのか…?」
「ええ。F級冒険者のミナトです。この近くを通ったら不審な連中がここの敷地内に侵入するのを目撃したので何かしらお助けできることがあるかもと思いこのように参上しました」
何事もなかったといった風でミナトは事前にシャーロットやデボラと話し合いでっちあげた理由を伝える。
「そ、そうか…、と、ところでミナト殿…、先ほどの魔法は…?」
「それについては冒険者の秘密ということでお願いします」
しれっと言い放つミナト。表情は笑顔だが目は笑っていない。その目を見てモーリアンが押し黙る。貴族の本能なのか、それ以上踏み込んでもよい結果が得られないことを察したようで、ほんの少しだけ表情を歪ませた。
「ん!マスターの匂いがする!」
「確かに…、マスター!ここにいるのか!?」
そんな言葉と共に会議室のドアを蹴破って入ってきたのはデボラとミオである。なぜかデボラは二人の人族を引き摺っていた。廊下で騎士達が騒然としているのが感じられる。
「デボラ!ミオ!無事みたいでよかった。その二人は何者?」
「ここの敷地内で遠巻きに見物していた者等を見つけたのだ。すると逃げようとしたので捕獲したのだが…。カーラ殿や他の騎士達によるとどう扱ったらよいか分からないとのことだったのでここに連れてきたのだ!」
そう言ってデボラは軽々と二人をミナトとウッドヴィル家の三人の前へと放り投げた。その二人を見てモーリアンだけではなく呆然としていたライナルトやミリムが驚愕する。二人とはスタンレー公爵タルボット家当主ロナルド=タルボットの次男サディアス=タルボットとその従者をしていた女性であった。
『ん!マスターから運次第とは言われていたけど、聞いていたあの者を捕獲出来たのはラッキー。既にマスターが欲しがっていた情報は引き出している!場所も判明!』
ミオが念話でそう言いながら胸を張る。
『ミオよ!あやつの下半身を焦がしたのは我だぞ!?』
デボラが念話で反論する。
『ん。治したのはボク!』
『魔力の消費量は我の方が…』
『ん。治癒の魔法は繊細な魔力操作が必要…』
デボラとミオとで念話による言い争いが続いているが、ウッドヴィル家の人々に目をやればライナルト達が騎士を呼び寄せサディアス=タルボットの処遇を指示している。ミナトに構うよりもサディアス=タルボットを優先する…、公爵家としては適切な判断だろう。
恐らく尋問が始まり多くの事実が判明する。しかしミナトはそれを待つつもりはなかった。まだ全てが終わったわけではない…。
『デボラ!ミオ!まだやることが残っている!必ず助けるぞ!』
「それでは皆さん…、我々はこれで失礼します…」
唐突にそう言うと誰の許可も得ることなくミナトはデボラとミオを引き連れてバルコニーへと出る。
「ミナト殿!?どこへ行く気じゃ!?」
「ミナト様!お話を伺いたく存じます!」
騎士への指示に忙しいライナルトに代わって気づいたモーリアンとミリムが慌てて追い縋るようにバルコニーへと出るが…、
「なんと…」
「いない…」
バルコニーにもそこから見下ろせる中庭にも屋根伝いにもミナトたちの姿を認めることはできなかった。
ちなみにモーリアンやミリムがミナトの姿を見失う少し前だが…、
「ぎいぃぃぃぃぃぃぃやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
深夜のルガリア王国、その王都…。夜の闇を引き裂くような絶叫が貴族街に響いていた。
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