第154話 全てを燃やし尽くす地獄の業火
虚空から突如として姿を現して執事の両腕を斬り飛ばし壁に打ち付けたのは一人の冒険者だ。その姿にライナルト、モーリアン、ミリムといった面々は唖然として声も出ない。
「………人形…?」
そんなウッドヴィル家の人々を背後に庇うようにして立つミナトがそう呟いた…。
【闇魔法】の
まるで木材を切断したかのような違和感だった。それに両腕が切断されたにも拘らず血が一滴も落ちてはいない。
「これはこれは~、油断大敵というやつですね~。さすがは公爵家~、このような伏兵を用意されているとは~」
へらへらと気持ちの悪い笑みを湛えつつ壁に打ち付けられたブライクがゆっくりと立ち上がる。両腕が肘下から切断されているのに痛みを感じている様子は見られない。そしてその切断面からは何やら固い材質の切断面のように滑らかな物質が見て取れた。
その異様な光景にさらに言葉を失うウッドヴィル家の人々。しかしミナトは冷静に執事を観察していた。【保有スキル】である泰然自若は伊達ではない。
【保有スキル】泰然自若:
落ち着いて、どの様な事にも動じないさまを体現できるスキル。どのようなお客様が来店してもいつも通りの接客態度でおもてなしすることを可能にする。
そして声色こそ違ったがミナトはその執事の話し方に覚えがあった。王都で手広く商売をしているバルテレミー商会の屋敷に忍び込んだ時に見かけた男にその口調が酷似している。かつて存在していた魔王を信奉するこの連中の組織をシャーロットは東方魔聖教会連合と言ったか…。さらにシャーロットがウッドヴィル領に来るまでの道中で接敵し、とんでもない魔法で撃退した男も同じ口調だったと聞く。
「お前が東方魔聖教会連合の残党か?」
ミナトの冷静な言葉に執事ブライクの容姿をした男は一瞬だけ表情を歪めるが直ぐに笑みを取り戻す。
「残党とは~、また酷い表現ですね~、なぜその名前を知っているのかお尋ねしてもいいですか~」
まだ余裕があるのだろうへらへらと笑いながら無い腕を振っている。ミナトはそれが魔法を行使する準備であることを見逃さない。男の今は無い腕の先であろう部分に小さな火球が見えた瞬間、
「がへっっっっ!!」
そんな叫び声ともつかない不快な音を伴って、男の頭部、その右半分が四散した。ミナトの【闇魔法】
【闇魔法】
ありとあらゆるものが拘束可能である漆黒の鎖を呼び出します。拘束時の追加効果として【スキル無効】【魔法行使不可】付き。飲んで暴れる高位冒険者もこれがあれば一発確保!
しかし、それでも男は動きを止めることなく再び立ち上がってみせた。
「やはり人形…、たしか
ミナトが確信をこめてそう呟く。
「このガキが!調子に乗りやがって!我等の存在を知っている上でその戦闘能力…、貴様、あのエルフの仲間か!?我等の此度の計画を邪魔し続けたのは貴様なのかぁぁぁぁ!!コロス!!コロス!!コロス!!コロス!!」
錯乱した様子ながら再び魔法を唱えようとする。そんな男…、
あれは
「
「へぇー!ラーメン好きな
「まーたあなたの世界の創作物の知識?あなたの世界にはホントに創造性の豊かな人が多いのね」
「世界的に人気の作品だったんだぞ!忍者ってのが海外に刺さったらしいんだ!」
そんな他愛のない話であったが唯一シャーロットが真剣に語った内容がある。
「いい?ミナト?
「問題?それとも弱点があるとか…?」
ミナトに向かってビシッとポーズを決める美人のエルフ。
「そのとおり!!
「
シャーロットの言葉に冷や汗が流れる。
「そう言うこと!魂への直接攻撃は肉体への強烈なダメージとして顕現される。だから
思わず頷くミナト。
「なるほどね。それでその魂への攻撃って?シャーロットが使ったっていうとんでもない大魔法みたいなやつ?」
そうミナトに聞かれてシャーロットはふぅっとため息をついた。
「ミナトだって使えるでしょ?」
「へ?」
「
妙に納得するミナトであった。
【闇魔法】
全てを燃やし尽くす地獄の業火を呼び出します。着火と消火は発動者のみ可。火力の調節は自由自在。ホットカクテル作りやバゲットの温め直しなど多岐にわたって利用できます。素敵なアイリッシュコーヒーがお客様を待っている!?
そんなことを思い出したミナトは徐に男に向かい掌を向けた。
「
ミナトの言葉がウッドヴィル家の会議室に響いた。
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