第153話 ウッドヴィル家本邸の会議室

 その頃…。


 俄かに騒がしくなったウッドヴィル家本邸、その二階、さらに奥まった場所に設置されている大きな会議室。脱出用としても使える中庭側に造られたバルコニーで一階に詰めている騎士からハンドサインで状況を確認していた執事のブライクが戻ってくる。会議室には当代公爵であるライナルト=ウッドヴィル、先代公爵のモーリアン=ウッドヴィル、ライナルトの娘であるミリム=ウッドヴィル、そして彼らの護衛として三人の騎士が付き従っていた。


 イストーリア侯爵ヴィシスト家の次男であるアラン=ヴィシストとマウントニール侯爵サンケインズ家の次女であるゾーラ=サンケインズは他の使用人達と共に地下に設置した避難用の部屋にいてもらうことにした。貴族の屋敷ではの時のため地下などに緊急避難ができるような部屋を作ってあるものだ。そこには水や食料の備蓄があり数日間は過ごすことができる。アラン=ヴィシストとゾーラ=サンケインズを避難用の部屋に行かせたのは全ての責任を公爵家で請け負うというライナルトの意思の表れであった。


「騎士達と襲撃者とで戦闘が始まったようです。今のところ屋敷に侵入はされておりません…」


 騎士からの報告を伝えるブライク。


「このように大それた行動を起こすとは…」


 ライナルトの表情が暗い。


「儂もお主から襲撃の可能性を聞かされ納得してはいたがこのような大規模の襲撃とはな…」


 モーリアンもライナルトに同意する。


「ウッドヴィル家の騎士は精強です。それにティーニュ様もいます。彼らを信じましょう」


 ミリムがそう言って祈るような仕草をした。


 襲撃を予想したライナルトはまだこの街に留まっていたティーニュを探し出し護衛の依頼をするとともに、騎士達も招集して護衛の準備を完了していた。しかしそれは少数の刺客による襲撃を想定していたものであったところに誤算があった。まさか公爵家を相手にしてこれほどの大規模な襲撃を行うとは流石のライナルトも予期できないものだった。


「我々が必ずお守りします…」


 そう言って三人の騎士が頭を下げ、一人がバルコニーのある窓側。残った二人が入り口を固めようとライナルト達に背を向けた瞬間、


「ぐぁ…」

「うぅ…」

「ひ…」


 騎士達の首筋に細長い針のようなものが深々と刺さった。三人の騎士が意識を失いその場へと倒れこむ。


「いや~、このように上手くことが運ぶとは~、陽動とは面白いものですね~」


 そんなことを言うへらへらと間延びした声の主は、


「「「ブライク!?」」」


 ライナルト、モーリアン、ミリムの声が重なる。そこには右手に短剣、左手に細長い針のようなものを携え、気持ちの悪い笑みを浮かべる執事のブライクの姿があった。


「これは一体どういうことだ!答えよブライク!」


 心の動揺を抑えつつライナルトが問う。


「どういうことと言われましても~、私があなた達を殺すのです~。元暗殺者のブライクが~。だから裏の仕事を任せていたものを~、傍に置くのはよしなさいって~、皆に言われていたでしょ~?あなた達は乱心した執事に殺害された悲劇の一族ということで歴史の教科書に載るのですよ~」


 ライナルト、モーリアン、ミリムの三人は自分の目が信じられなかった。目の前にいる男は間違いなくずっと昔から知っているブライクの姿をしている。だがこの気持ちの悪い笑みと口調は自分たちが知っている執事のそれとは全く異なるものなのだ。


「貴様…、何者だ…?」


 ライナルトが呻くようにそう呟く。


「あなたは知らなくていいのですよ~、では~、さような…」


 気持ちの悪い笑みを浮かべるブライクの言葉はそこで中断された。


「申し訳ない!この展開は読めなかった…」


 その言葉と共に漆黒の鎖が二本現れた。その鎖は目にも止まらぬ速さで執事の両腕を斬り飛ばし、その体を壁へと打ち付ける。【闇魔法】絶対霊体化インビジブルレイスを解除したミナトがその姿を現すのであった。

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