第152話 騎士達の戦い

 深夜のウッドヴィル家本邸、その敷地内で火属性と水属性の魔法が立て続けに放たれる。その卓越した技術で放たれた魔法は姿を隠す刺客たちを正確に射貫いた。


「凄まじい…、何という威力…、それに狙いが正確だ」


 カーラ=ベオーザが放心気味にそう呟く。


「あれが炎の女神か…」

「お近づきになれないものか…」

「やめとけ…、冒険者ギルドで聞いたがあのリーダーはヤバいらしい…」

「もう調べたのかよ!」

「あっち水魔法使いは…」

「可憐だ…」

「「「確かに…」」」


 デボラとミオの姿を目の当りにした騎士達が惚けたように呟いている。どうやらここにいる騎士達はミナトたちと共にモーリアン達の護衛として王都から来たメンバーらしい。デボラに『炎の女神』なる二つ名がついていた。そしてミオの可愛らしさにも気づいたらしい。しかし上司であるカーラが睨むと慌てて姿勢を正した。


「デ、デボラ殿!そちらの水魔法使いの方もミナト殿のパーティメンバーなのか?」


 カーラの言葉にデボラが頷いてみせるのと同時に隣にいたミオが右手の人差し指、中指、薬指を立ててみせる。


「ん。ボクはミオ。マスターの第三夫人!」


 あくまで無表情なのだがどこか勝ち誇ったようなニュアンスを含めつつミオはそう断言した。


「第三…?そ、それは…」


 予想外の情報にカーラが言葉を詰らせている傍らで、騎士達の様子がおかしい。


「いま第三夫人って言ったよな!?な?な?」

「ってことはあの美人エルフと炎の女神が…?」

「あの野郎!勝ち組か!?」

「ハーレム野郎だったか…」

「爆発しろ!」

「モゲチマエバイインダ!」


 騎士としての行動規範はどこへやら…、全員が混乱し苦悩している。


「騎士諸君!楽しい話を中断して申し訳ないが、敵の数が多い!討ち漏らしがそちらに抜けるぞ!対処を頼む!」


 デボラの声が響く。デボラやミオが本気を出せば視界の範囲にいる刺客全てを無力化することも可能なのだがここではドラゴンではなく冒険者という設定である。この世界において使える者が極めて少ない魔法というものを使いまくっている時点で強者は確定なのだが、それ以上を見せるつもりはない。ミナトにも程々にしておくよう言われていた。


「総員!構え!」


 デボラの声を聴いたカーラが騎士達に指示を飛ばす。騎士達は剣を構えるがその表情は暗い。そしてその目は完全に座っていた。


「頭きた…。こんなところで死んでたまるか…」

「今日は全員嬲り殺しでヤケ酒だ!」

「付き合うぞ!先ずは汚物の消毒だ!」

「おれ…、酒場のリリーちゃんとこの任務が終わったら結婚するんだ…。だから勝つ!勝って彼女のところに帰るんだ!」

「やめろ!縁起でもないその妄想!」

「ヒヒ…、ミナゴロシ、ミナゴロシ、ミナゴロシ…」


 全員のテンションがおかしい。先ほどまでほぼ互角だったはずだが騎士の一人がデボラたちの討ち漏らした一人と対峙する。次の瞬間、刺客は一刀のもとに首筋の頸動脈を断ち切られて崩れ落ちる。盛大に返り血を浴びながらその騎士が叫んだ。


「次はどいつだ!この腐れ〇〇〇〇〇〇〇ピーーーーーーどもが!!」


 どう表現したらよいか分からないくらいの汚らしい言葉で暴言を吐きながら剣を構えるのだった。


「何がどうしたのかよく分からんが騎士達は何とかなりそうだな…」


 何とも言えない騎士達の様子を見て額から一筋の冷汗を流しながらデボラがそう結論付ける。


「ん。えっと…?デボラ…、あれ…」


 デボラの言葉を肯定したミオだが、そう言って敷地の奥を指差した。そこにあったのは転がるようにして逃走を始める二人の人影。二人が捕獲に動いたのは言うまでもないことである。

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