第151話 ウッドヴィル家本邸の攻防
「敵襲ー!!敵襲だー!!」
正面玄関を警戒していた騎士が叫ぶ。その言葉に呼応してウッドヴィル家本邸のあちこちにから声が上がり、騎士達の視界を確保するかのように至る所に灯りが点される。さすがはウッドヴィル公爵家、ミナトが予想した通り襲撃があることを完全に予期して待ち構えていたようだ。
正面玄関に迫る黒装束を纏った刺客は四人。それを迎え撃つのは騎士三人と一人の女性冒険者。ウッドヴィル家に雇われたA級冒険者ティーニュが今夜の警備に参加していた。
「女神よ…、
ティーニュの呟きと同時に身体強化の魔法が展開される。爆発的な加速で瞬時に刺客の懐へと間合いを詰め間髪入れずに渾身の力でメイスを振るう。流れるような動きで振るわれたメイスは狙いすましたかのように刺客の脇腹へと打ち込まれた。
「
同時に魔法が唱えられメイスから爆発的に水が弾け飛ぶ。刺客が錐揉み状に回転しながら真横に飛んで行った。ティーニュクラスの冒険者であればこの程度の刺客であれば問題ないらしい。
しかし騎士達三人は互角に切り結んでいる。ティーニュが援護に回ろうとするが、どこに潜んでいたのか彼女の背後から新たに四人の刺客が迫る。
「くっ…」
ティーニュが新たな四人の刺客に向き直りメイスを構えた。不意を突かれ反応が一拍遅れてしまが、斬りかかってきた刺客の刃をメイスで弾き飛ばし刺客との距離を取ろうとする。残りの刺客三人が騎士達の方へ移動するのを視界に捉えティーニュは下唇をかんだ…。その時、
「
美しい声が夜空に響く。詠唱の言葉と同時に七本の氷の槍が凄まじい速度で刺客たちの膝頭を正確に打ち抜いた。その場に倒れ伏した七人の刺客はもはや動くことができないようだ。ティーニュと騎士は声が聞こえた頭上を見上げる。その視線の先には美しい金髪を夜の風に靡かせながら絶世の美女が屋根の上に立っていた。すらりとした長い手足と高い位置にある腰、ほどよく見事に張った胸にエルフ特有の長い耳。
「シャーロット殿!?」
女性冒険者のティーニュが驚いて声を上げる。
「偶然だけどここの敷地に変な連中が入っていったのが見えたのよ!勝手に手を出したのは謝るけど、面倒な事態みたいだから手伝うわ!」
そう言いつつ新たに四本の氷の槍を庭の樹々へと打ち出した。
「ぎゃっ!」
「ぐえ…」
「ごぼっ!」
「がぁっ!」
樹々の上から隠れていた四人の刺客が落ちてきた。
『こんな目立つ襲撃ってあるかしら…?陽動って考えた方が自然だけどミナトがいるから大丈夫でしょ』
そんなことを考えつつシャーロットはさらなる伏兵を探すのであった。
同じ頃…。
「襲撃者を絶対に通すな!全員切り伏せろ!!」
「「「「「おう!!」」」」」
ウッドヴィル家本邸の裏手ではウッドヴィル家付きの騎士であり公爵家が統括している麗水騎士団で副団長を務めているカーラ=ベオーザ率いる騎士六人が十二人の刺客を迎え撃つ。カーサ=ベオーザであれば勝てる相手ではあるが、騎士と刺客の実力は一対一でほぼ互角。鎧と盾を装備している騎士達の守りは固いが数的不利は否めない。騎士達は守りを重視して切り結ぶ。
「まさかこれほどの数で襲撃されるとは…」
三人の刺客を相手取りながらカーラ=ベオーザはそう呟く。この三人を早く斃さなければならないが相手の太刀筋はなかなかに鋭い。
『暗殺者ではない。これは正式に剣を修めている者の太刀筋だ…』
そう感じながら剣を振るい続けるが、徐々に騎士達が圧され始める。
「ぐっ!」
騎士の一人が腕を切り付けられ剣を取り落とす。何とか保っていた戦線の均衡が破られる…、とカーラ=ベオーザが苦悶の表情を浮かべたのだが、
「ん。
そんな可愛らしい声をカーラ=ベオーザが聞いたような気がした。狙ったかのように小さな水球が刺客全員の前に出現する…、と同時にその水球が弾け凄まじい衝撃波が刺客達に襲い掛かった。悲鳴を上げることもできないままに縦回転をしながら虚空に吹き飛ばされる刺客達。そんな刺客に向けてさらに一筋の赤い光が降り注ぐと刺客たちの足が切り飛ばされた。
その様子にカーラ=ベオーザと騎士達が呆然として言葉を失う。
「許可なく手出ししたことは謝罪する!
頭上から聞こえてきた凛とした声色にハッとしてカーラ=ベオーザと騎士達が見上げるとそこには屋根の上に立つ月明かりを背にした二つの人影があった。
一人は、真紅のロングヘア―を靡かせる切れ長の目をした女性。きりっとした表情がよく似合う。身に纏っているのは赤を基調とした民族衣装風の装い。長身に引き締まった脚線と高い腰、そして見事なまでに張った胸。デボラである。
そしてもう一人は、少女のようなあどけなさを残し、透き通るような青い瞳と青い髪の女性。表情は乏しいがその見目麗しいという言葉を体現したかのような整った顔立ち。こちらはデボラとは対照的な青を基調とした民族衣装風の装い。細身の少女体形と透明感のある可愛らしさ。ミオであった。
「デボラ殿か!ご助力感に謝する!!」
カーラ=ベオーザの声にデボラは力強く頷いてみせる。
『マスターは懸念していたがこの派手な襲撃は陽動というやつなのだろうな…』
『ん。たぶんそう…』
念話でそんな言葉を交わしながら二人は隠れている伏兵に強烈な魔法を放ち続けるのであった。
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