第149話 スタンレー公爵タルボット家からの使者
翌朝、婚姻の儀を二日後に控えたこの日も領都アクアパレスは晴天である。その街の中心部。街のシンボルの一つとしてその神殿は存在した。水竜を祀っているこの神殿はウッドヴィル家の管轄であり、本殿はウッドヴィル家
正午となり神殿の門前ではウッドヴィル家の騎士達が領民の往来を制限し来客を出迎えるための面々が姿を現す。当代公爵であるライナルト=ウッドヴィル、先代公爵のモーリアン=ウッドヴィルが並び立ち、その横にラジョーナス司祭、そして執事のブライクが彼らの背後に控えていた。
しばらくすると大勢の騎士が先導する形で豪奢かつ大きな馬車が到着する。騎士のマントや馬車に
【スタンレー公爵タルボット家】
ルガリア王国における交易拠点の要所である自由都市ミルドガルムを中心とするスタンレー地方を治める公爵家。その歴史はルガリア王国初代建国王バルバドス=ルガリアの弟君であるアルミアス=ルガリアがスタンレー地方の統治を任されタルボット家を興したことに始まる。歴史あるこのルガリア王国における二大公爵家の一つでこの国の武官を取り纏める立場にある。紋章は黒獅子。
馬車の扉が開かれると男性が降りてきた。身長は一.九メートルはあるだろうか。まだ若く二十代前半、痩せた体躯に糸のように細い目、一見すると文官のような佇まいだが、帯剣しており軍服のようなその装いは彼が武官であることを示している。
「サディアス殿。ようこそアクアパレスへ」
現当主のライナルトが一歩前へ出て長身の男性を出迎えた。この大男がスタンレー公爵タルボット家当主ロナルド=タルボットの次男サディアス=タルボットなのだろう。
「ミルドガルム公爵、我が父、ロナルドの名代として神殿の視察をさせて頂く。先ずは突然の訪問になったことお許し願いたい。こちらを…」
殊勝な態度のサディアスがそう言うと彼の傍らに控えていた従者と思われる女性が一通の書簡を差し出した。
「此度の視察に関する指令書です」
サディアスの言葉を受けて執事のブライクが進み出るとその書簡を受け取りライナルトに渡す。王家の印で封蝋がされたそれを開封し一読したライナルトが顔を上げる。
「確かに承った。ただここに記載のある
「それはご心配なく!此度は突然の視察…、ですから皆様の手を煩わせるのも申し訳ないと考え、鑑定の魔道具はこちらで用意しました」
穏やかな笑みを浮かべつつそう答えるサディアス。その様子はこのやり取りを楽しんでいるかのようであった。
「それはありがたい。では鑑定についてはそちらの魔道具を使用して頂くこととしよう」
表情一つ動かすことなくライナルトが返答する。一切の動揺を悟らせないところは流石は公爵といったところであるが、この瞬間にライナルトやモーリアンの万策は尽きたといってよい。今この時、神殿に安置されている
「ところでこの書簡によると本来はスタンレー公爵がおいでになるとのことだったようだが、いかがいたしたのか?先日、王都でお会いした時はご壮健でいらしたが?」
「父は病で臥せっておりまして、今は兄と私とで公務を行っているところです」
「ほう…。それはそれは…、後ほど私から見舞いの品を送らせて頂こう」
「それは
どこか芝居のかかった様子で恭しく一礼するサディアス。
「それでは視察を始めることにしましょう。ふふ…、簡単な視察ですよ。先ずは
穏やかに笑っているようだが、その端々に嘲りが含まれていることに公爵も先代公爵も気が付いている。
『やはりタルボット家の誰かが黒幕か…』
二人の心の内はその言葉に埋め尽くされていた。
「…ご案内します」
辛うじて顔を作っていたラジョーナス司祭が憔悴した様子で案内を申し出る。
「それでは始めましょうか?」
サディアスの号令で鑑定の魔道具が始動する。その結果は…、
「鑑定が完了しました。
淡々とした魔道具師の言葉が伝えられた。
「へ!?」
間の抜けたようなサディアスの言葉が神殿の最奥に響く。
『さてどうなることやら…』
【闇魔法】
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