第147話 水の大樹

「これが水の大樹…」


 その荘厳なまでの美しい姿に圧倒される。ミナトの眼前には巨大な青いクリスタルで出来た樹があった。紅いクリスタルで造られていた火の大樹とは対照的ともいえる美しい青い樹は荘厳な雰囲気を湛えている。


「ん。ボクたちの象徴であり、一族をかけて護る存在。世界の水属性を管理するのがこの『水の大樹』。人族がここまで来たのは初めて」


 ミオがそう説明してくれる。


 ここは水のダンジョンの最奥にある巨大なホール状の空間。女同士の話し合いが終わったとのことで、ミナトは水竜の紅玉ブルーオーブがある水の大樹への案内をミオに頼んだ。どんな話し合いが行われたのがを聞く勇気は生憎持ち合わせていなかったので放置である。平和的な話し合いであったことを祈りたいミナトであった。


 これでウッドヴィル家が管理する神殿に安置されていた水竜の紅玉ブルーオーブが何者かに破壊されたためその代わりとなるものを入手するという目的もどうやら果たせそうである。


「ミナト?本物を入手できたとしてどうやってそれをウッドヴィル家に渡すつもり?あのミリムって子は話が分かるとは思うけどポンっと渡すわけにもいかないんじゃない?」


 シャーロットが聞いてくる。


「一応考えてはいるよ。多分今頃冒険者を使ってこのダンジョンの攻略をしようとしているとは思うけど…」


 ミナトがそう答える。


「冒険者では第三階層が限界だぞ?」


 デボラがそう答える。


「その通り。あのカエルの群れを冒険者達がおれ達のように斃せるとはとても思えない。冒険者を使ったダンジョン攻略は失敗する。後は複製品レプリカに頼るしかないと思うんだよね…」


 デボラに同意したミナトはそう言ってニヤリと笑った。ミナトには珍しい黒い笑みである。


「ミナト?」


「何か思いついたのか?」


 シャーロットとデボラが聞いてくる。ミオは三人を先導し無言でトテトテと歩き続けている。


「ふふ…、もし完全にうまくいったら笑ってしまうけどちょっとそんなことをしようと思ってる。収納魔法も使えるようになったし…。楽しみにしてて!」


 ミナトには何やら策があるらしかった。


 そんな話をしていると水の大樹の根本まで辿り着く。火の大樹と同じで巨大な根元には巨大な扉が付いていた。


「ん。こちらへどうぞ…」


 そう言ってミオが近づくとひとりでに扉が開かれる。


 ミオに促されて『水の大樹』の内部へと入るミナト。その眼前には空間全体を満たすかのように無数の水竜の紅玉ブルーオーブが山と積まれていた。


「ここも凄い光景だ…」


 思わずそう呟く。


「ん。たくさんあるから持って行って」


 青い髪の美少女がそう言う。


「ありがとう」


 そう言ってミナトは頭を下げた。


「ん。マスターが嬉しいのであればボクも嬉しい」


 そう言って笑みを浮かべるミオ。その笑顔はとても可愛らしかった。こうしてミナトは水竜の紅玉ブルーオーブを手に入れることができたのである。


「…うん…。『水の大樹』も調子よさそうじゃない?」


 そんな中シャーロットが青いクリスタルで造られた壁に手を触れつつミオへと声をかける。


「ん。シャーロット様のおかげ…。この大樹は一族の誇りをかけて守り育てる」


「それは本当によかったわ…」


「ん…」


 デボラとも同じようなやり取りをしていたことを思い出すミナト。どうやら昔にいろいろとあったらしいがシャーロットが話したがらないのでここで尋ねるのは止めることにする。いつか話してくれる時が来るだろう…。


「火の大樹に水の大樹か…。人族で属性を司る大樹を二本も見た人っているのかな?」


 返ってくる答えの予想はつくがそんなことを呟いてみる。


「それに関してはいないと断言できるわね。一本すらいないわよ?属性を司るドラゴン二種類に遭遇するのも無理じゃないかしら…?ますます貴重な体験をしているわね!ミナト♪」


 笑顔のシャーロットがそう言って片目を瞑ってみせる。その姿がとてつもなく魅力的であることは言うまでもない。


 王都に来た頃は王都でバーテンダーとして働き時々は冒険者として旅を楽しむくらいを考えていた筈なのだが、冒険のスケールが拡大していることに思わず軽い眩暈を覚えてしまうミナトであった。

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