第145話 新たな従業員?

「何も…、何も変わっていないよね…。デボラの時が特別だっただけで今回は時に何も…」


 何かに祈るようにミナトが呟く…。


「あー、ミナト…。デボラの時と同じになっているわよ?」


 シャーロットが即座にミナトの希望的観測を否定した。


「やっぱり…?」


「今の彼女は『水皇竜カイザーブルードラゴンのミオ』よ。これも私が聞いたことがない種族ね。眷属強化マックスオーバードライブって本当にすごいスキルよね」


「そ、そうですか…」


 たらりと一筋の冷汗が額から流れる。


「それにデボラの時と同じで魔力量が桁違いに大きくなっている。身体機能やブレスの威力もとんでもなく強化されているわ。それと魔法が使えるようになっている。この辺りもデボラと同じで魔法は水属性の魔法のみらしいけどやっぱり私と同じくらいには使えるみたいね…」


「それって…、かつて存在した魔王と比べてってやつ…?」


 ミナトが恐る恐るシャーロットに尋ねる。


「そう!かつて存在した魔王であってもこのステータスと魔法のレベルを考えると一対一で勝ち切るのは難しい。深手を負ってギリギリの辛勝か悪くて相打ちといったところってやつよ」


「デボラに続いて二人目?」


「ミナトの眷属として相応しい存在になったって感じだからいいんじゃない?」


 にこやかにそう言ってくるシャーロット。


「戦力が過剰に上乗せされてゆく…」


 心の中で頭を抱えるミナトである。


 そんな二人のやり取りを見ていたミオがこちらへと向き直る。


主様ぬしさま水皇竜カイザーブルードラゴンのミオは改めて主様ぬしさまへの永久の服従を誓う!」


 そう言ってひざまずいた。


「ミオ!デボラの時にも言ったのだけど、できればシャーロットのように普通に接してほしいのだけど頼めるかな?」


「ん。主様ぬしさまがそう言うのであればそうする」


主様ぬしさまって呼び方も何とかならないかな?」


 ミナトの言葉にミオは少し考えこむ。


「ん。承知。これより主様ぬしさまのことをマスターと呼ぶ。そしてボクも王都にあるBarで働くのでヨロシク」


「ああ、それで大丈夫…、………え?ミオがBarで働く?」


 ミオの突然の宣言にミナトが慌てて聞き返す。


「ん。デボラからいろいろと聞いた。デボラが働いているのにボクが働かないのはおかしい。それにマスターと一緒にいれば美味しいカクテルと料理に出会える。それは非常に興味深い…。そしてこの里の子たちもレッドドラゴンたちと同様にお客としてBarに行くのでお願いする。そのときこの里のワインや魚介を持ってこさせる」


「ソウデスカ…」


 そう呆然と答えた後、ミナトは改めて考える。そもそもミオが従業員になることに問題などない。従業員がローテーションを組み余裕のある業務ができるのはよいことなのだ。職場がブラックなのは宜しくない…、ダメ…、ゼッタイ…。それにお客が増えるのは単純に嬉しいし、この里のワインや魚介を入手できることは何よりも素晴らしい。


「ミナト!いいんじゃない?お客も増えて店にとってよいことだと思うわ」


「我はマスターの判断に従うだけだ」


 シャーロットはミオを授業員に加えることに賛成らしい。デボラはいつものようにミナトの判断を尊重してくれるようだ。ミナトとしても特にこれといって反対する理由などはなかったりする。しかし、


「おれとシャーロットとデボラが働くBarにミオが加わる…」


「そのBarから世界に覇を唱えることが可能なことは間違いないわね!」


 嬉しそうなシャーロット。デボラの時と同様にとりあえずそういったことはしないようにしようと固く心に誓うミナトであった。


「ん。ということで第夫人として頑張るのでよろしく!」


「はい?」


「え!?」


「なんだと…?」


 ペコリっと頭を下げつつ言ったミオの言葉に、ミナト、シャーロット、デボラは三者三様の驚きの声を上げるのだった。

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