第144話 ブルードラゴンの名

 ミナト、シャーロット、デボラの三人がミナトのステータスへ新たに追加された項目に関してわちゃわちゃと話しているところに輝きの収まったブルードラゴンたちがやってきた。とてとてとブルードラゴンの長が代表して前へと進み出る。控える他のブルードラゴンたち全員がひざまずく。レッドドラゴンたちの時にも同じような光景を見たような気がするミナトであるが、


「えっと…?」


 何と言っていいものやら…、そう思っているとブルードラゴンの長が口を開いた。


「ん。主様ぬしさまにボクたちブルードラゴンは永久とわの忠誠を誓う!以後よろしく」


 そう言ってペコリと頭を下げた。とても可愛らしい…、とミナトは思うがここは黙っていることにする。


「ええっと…、ヨ、ヨロシクオネガイシマス…」


 シドロモドロになりながらもそう答えた。そもそも全員がブルードラゴンではあるのだが、その見た目は十代半ば…、そしてとびっきり美形の少女である。大勢の少女にひざまずかれて落ち着いていられるほどミナトの精神は鍛えられていなかった。


「こんな可愛い女の子たちを従えるなんてミナトも悪役が板についてきたわね」


 ニヨニヨとした笑みと共にシャーロットが冗談半分なのか言ってくる。


「我が里も含めていったい何人の女を我が物にすればマスターは気が済むのか…」


 もっと悪い笑みをニヤニヤと浮かべつつデボラもそんなことを言ってきた。


「おれってテイムはしたけどそれ以上は何もしていないよ?」


 やろうと思えばラノベのハーレム展開もできるようだが、テイムで縛ってのハーレム展開は何か違うと思うミナトであった。一般的にはチキンともいうかもしれない。


『チキン野郎でも結構!もう何とでも言ってくれ…』


 半ば投げやりにそう思っているとブルードラゴンの長が近づいてきた。


「ん。主様ぬしさま!ボクに名前を付けることを要求する!」


「名前?」


 思わずミナトが聞き返す。するとブルードラゴンの長は今更何を言っているのだという表情で話し始める。


「レッドドラゴンたちは主様ぬしさまにテイムされたとき、一族は力を得た。そしてそこにいる長がデボラという名前を得た。であればボクたちも同様の待遇を求める。ボクたち一族は力を授かった。だからボクに名前を!」


 そういうものなのかと思って視線をシャーロットに向かると頷いて名前を付けることを肯定してくる。


「名前ね…」


 ミナトはしばし眼前の可愛らしいブルードラゴンの長の名前について考えた。


「ミオってどう?おれのいた世界では水に由来する文字で『澪』ってのがあってその読み方なんだ。清らかな女性の名前って感じなのだけど…」


 そう提案した瞬間、ブルードラゴンの長の体が光り輝き、大量の魔力が溢れ出た。


「これは…、力の奔流…?」


 ブルードラゴンの長は光に包まれつつそう呟いた。体内に圧倒的なまでの魔力量を感じる。これまでの自身が持っていた魔力量とは比較にならない大きさである。その夥しい魔力量に不安と恐怖を覚えるが不思議と不快感はない。


 魔力の高まりと共に身体に変化を感じる。本質は同じままに存在そのものが書き換えられるような不思議な感覚。


『汝の名は?』


 唐突に頭に声が響いた。女性のもので声質は穏やかである。


「誰!?」


 周囲を見渡す。ここはブルードラゴンの里にある建物の一室で周囲にはミナトやシャーロット、他のブルードラゴンも居る筈なのだが周囲には誰もおらず何も見えず他者の気配を感じることもできない。


『汝の名は?』


 重ねて問いかけられる。ブルードラゴンの長はミナトが自身に付けてくれた名を問われているのだと確信した。


「ボクの名はミオ…。ブルードラゴンの長にして主様ぬしさまの眷属…、水皇竜カイザーブルードラゴンのミオ!」


 輝きが収まる…。そこには先ほどと変わらない姿のブルードラゴンの長、改めてミオが立っていた。

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