第139話 歓迎のお礼は異世界の料理

 ブルードラゴンたちの話によるとここにブルードラゴンの里ができてから幾星霜、水のダンジョンの最下層がここまで活気づいたことはないらしい。


 ミナトたちはワインを保存する倉庫があるホールから、王都などでいう飲食街のような建物のあるホールに場所を移す。飲食街の中にある大きな建物の大きな一室を使用してよいということだったので、素早くそして優雅な身のこなしでミナトはマティーニを作りまくり大喝采を浴びた。ブルードラゴンたちはミナトに羨望の眼差しを向けつつ、赤、白のワインボトルを用意する。これはこのままパーティへと繋がる流れだ。


 聞けば水のダンジョン最下層を構成する水の大部分は淡水であり、淡水魚が捕れるという。さらには驚くほど巨大な地底湖がありそれは海水であって大陸の地下深くを流れて海に通じているらしい。そのせいか海水魚も豊富に捕れるということだ。


 しばらくするとテーブルにブルードラゴンの里産の魚介料理が並べられ、立食形式の宴会が始まった。


「イワシの塩焼き…、いや白ワインと食べるからサルディーニャス・アサーダスかな…?そしてすごく美味しい…。レッドドラゴンたちが作った果物も抜群だったけど、ドラゴンの里で採れたものって美味しいのかな…?」


 どう見てもイワシの塩焼きにしか見えない魚を味見してそう呟くミナト…。名前を聞くとサーディーンとのことで完全にイワシ認定するミナト。他にも魚介のトマト煮込みらしい料理やワイン好きだからなのかチーズのようなものの盛り合わせも登場した。


 カクテルを食前酒として、ワインと料理を味わっていると、


「ミナト!何かあなたのいた世界の料理って作れないかしら?歓迎してくれたお礼にミナトの世界の料理を食べて貰ったらどうかしら?」


 そんなことをシャーロットが言ってくると全員の視線がミナトに集中する。


「ん。もし可能であればお願いしたい。ボクたちは今日カクテルという新しい酒の飲み方に出会った。これは本当に素晴らしい経験。さらに料理にも異世界の味というものがあるのなら体験したい!」


 ブルードラゴンの長もシャーロットの言葉に同意を示す。すると皆が興味津々の視線となってミナトを見つめてくる。


「そうだね…。ここの食材を使うとなると…、さっきのトマト煮込みに入っていた魚の名前って分かります?」


 ミナトがブルードラゴンの長に問いかける。ほぼ確信があるのだがあの魚がミナトが思う魚であるなら、


「あれはコッド。ボクたちは塩漬けして干したコッドを水で塩抜きして料理に使う」


 その答えに我が意を得たりとばかりに微笑むミナト。


「コッド?なるほどやっぱりたらだった。じゃあ、その塩抜きした干し鱈…、じゃない、コッドを使わせてもらいます!」


 ミナトは料理の準備を始めるため同じ建物に設置されている厨房へと移動する。


 用意する材料は、ニンニク、卵、オリーブオイルに塩と胡椒。野菜としてニンジン、セロリ、ブロッコリー、ジャガイモ。そして塩抜きした干し鱈もいっぱい。ブルードラゴンの里で手に入らない食材はミナトが転移テレポを使って王都で入手してきた。さすがは王都、夜遅くになってもマルシェや店舗が開いている。


「ミナト?これで何を作るの?」


 傍らのシャーロットも興味津々だ。


「ほら…、マヨネーズって美味しかったじゃない?」


 ミナトの言葉にシャーロットとデボラの目が輝く。


「あれは素晴らしい調味料だったわ!」


「うむ。この世界の食材であのように美味い調味料が作れるとは想像もできないことであった…」


 マヨネーズの味を絶賛する二人。


「まよねーず?」


 コテンと首を傾げるブルードラゴンの長や他のブルードラゴンたちに二人がその素晴らしさを語って聞かせる。心なしかブルードラゴンの羨望の眼差しが強くなった気がするミナト。


 異世界テンプレそのままにこの世界でもマヨネーズは神的な調味料である。それを踏まえてミナトの作る料理とは…、


「でしょ?だからそれと似た傾向の味がして、白ワインに合う料理を作ります!」


「「「おおお!!」」」


 歓声が巻き起こった。


 そんな歓声の中、ミナトは料理を開始する。料理名は…、


「魚介と野菜のアイオリ・ソース盛り合わせ!さあ、作るとしますか!」

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