第138話 マティーニ完成
シャーロット、デボラ、ブルードラゴンの長にベルモット・ロックに満足してもらったミナト。他のブルードラゴンたちにもベルモット・ロックを作り喝采を得た。ついでとばかりにソーダ割りも作成し、さらにブルードラゴンたちが白ワインを造っていたので入手したブラックカラント酒ことクレーム・ド・カシスを使ってキールも作った。さらなる喝采を浴びることになったのは言うまでもない。
「さてと…、遂にマティーニを作ります!」
ミナトは皆を前にしてそう宣言する。テーブルの上にはよく冷やされたジンのボトル、瓶に詰められたベルモット、今回の旅で手に入れたオレンジ・ビターズ。そして王都のマルシェで購入したオリーブのピクルスをドワーフのバルカンに頼んで作ってもらった銀製のカクテルピンに刺す。後はレッドドラゴンの里産のレモン…、というかその皮をほんの少し…、レモンピールというやつである。ショートグラスはシャーロットにお願いして冷やしてもらう。
「ミナトはそのカクテルが作れるようになるのを心待ちにしていたものね!とっても楽しみだわ!」
「うむ。マスターが店を開いたときマティーニというカクテルが作れないことを気にしていたのを覚えている。遂にその願いが叶うのだな!」
シャーロットとデボラはマティーニを楽しみにしていたらしい。
「ん。ボクも興味深い…」
また無表情に戻ったブルードラゴンの長もそう言ってくる。その背後には興味津々の人化したその他のブルードラゴンが控えていた。
そんな彼らの視線を集めつつ、ミナトはミキシンググラスに氷を投入する。バースプーンで軽く氷を回しミキシンググラスの温度を下げる。そうしておいてミキシンググラスにストレーナーを取り付けると氷が溶けた分の水を切った。次にストレーナーを取り外し、そこにオレンジ・ビターズをふた振りほど振り入れる。
「そうやってオレンジ・ビターズを使うのね…」
頷いているシャーロットを視線の端に捉えつつ、ジガーとも呼ばれるメジャーカップを使ってよく冷やしたジンを四十五mL、ベルモットを十五mL、ミキシンググラスへと注ぎ入れた。バースプーンで静かにステアする。味を薄めないため氷を必要以上に溶かさないよう
しっかりと温度が下がったことを確認し、よく冷やしてあったショートグラスに静かに注ぐ。
「相変わらずきれいな動作ね…」
「うむ。お見事…」
「ん。すごい…」
ミナトのカクテルを作る一連の所作にシャーロットたちが感嘆の声を上げるのが耳へと届くが、まだカクテル作りは終わっていない。銀製のカクテルピンに刺したオリーブのピクルスをゆったりとショートグラスに沈める。そして最後の仕上げとしてレモンピールを指先で絞り皮の油分をショートグラスへと飛ばした。
それを三杯作成する。ミナトの口元に会心の笑みが浮かんだ。
「どうぞ、マティーニです。オリーブは取り出して好きなタイミングで食べてみて!」
その言葉と共にシャーロット、デボラ、ブルードラゴンの長の前にグラスを差し出す。
「これがマティーニ…。ミナト!頂くわ!」
「これが…、マスターがどうしても造りたかったというカクテルか…。頂こう!」
「ん。頂きます!」
笑顔の三人がそれぞれショートグラスを持ってマティーニをその魅力的な唇へと運ぶ。
『やっとマティーニを作れた…。さて…、なんて言ってくれるのかな?』
ミナトがそんなことを考えているとマティーニを飲んだ三人が目を見開く。
「これは美味しい!私はジンが好きだけど、この味わいは本当に素敵だわ!ジンのストレートより少し甘くてオレンジ・ビターズも仄かに感じる…。飲みやすいけどカクテルとしてはかなり辛口よね?そこがまたいいわ!」
シャーロットがとびっきりの笑顔で口火を切った。
「うむ。ジンの味わいにオレンジ・ビターズやベルモットの味わいが重なりより重厚感のある味わいになった。まさにジンを使ったカクテルの王道と言ったところか?シャーロット様の仰る通り辛口であるから飲む者を選ぶかもしれぬがジンを飲める我としては素晴らしいカクテルに出会ったと言える!」
デボラも絶賛する。
どうやら二人はマティーニのことが好きになったらしい。オリーブも食べさらに美味しそうに三口で飲み切った。もう一杯と言いたそうにしているのは見間違いではない筈である。
「美味しい…。こうやって強化ワインが使われるなんて…」
その傍らでブルードラゴンの長が呆然と呟いた。
「どうかな?マティーニの味は?」
ミナトがブルードラゴンの長に尋ねてみる。
「本当に美味しい…。そして…、ありがとう」
そう言ってペコリと頭を下げた。
「一族に伝わる話が真実だったと証明された。『強化ワインは何かと合わせることで真価を発揮する』と伝わってきたけどボクたちにはそれを証明することができなくて…、ただ造ることしかできなかった…。ボクは嬉しい!強化ワインを造ってきてよかった。そしてとても美味しいカクテルに出会えてよかった。本当に…、本当に嬉しい。だから感謝する…、ありがとう」
弾けるような笑顔でそう言われ、
「それはよかった。そう言ってくれるとおれも嬉しいな」
ミナトも最高の笑顔になった。
「さてと…、ショートグラスもジンも他の材料もたくさんある!皆も飲んでみてほしい!」
ミナトはそう長の背後に控えるブルードラゴンたちに声をかける。
世界最難関ダンジョンの一つと言われる水のダンジョン…、その最下層に大歓声が響き渡るのであった。
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