第137話 ブルードラゴンとベルモット(ベルモット・ロック完成)
「強化ワインは酒精強化ワインのことでいいのかな…?とにかくこれは間違いなくベルモットだ…、ノイリープラットと呼びたいけど…、うーん、………………ベルモットということで…」
歓喜の表情と共にミナトがそう呟く。ここは水のダンジョン最下層の一角でワイン樽を保存している倉庫が建てられている空間である。ブルードラゴンの話によると水のダンジョン最下層はいくつかの大きなホール状の空間が通路で繋がり、その最奥に最も大きなホールがあってそこには水の大樹があるとのことだった。
そんなダンジョン最下層に建てられた倉庫でミナトはベルモットの試飲をしてブルードラゴンたちが造っている強化ワインがベルモットであることを確認していた。
「この強化ワインがもっと美味しく飲める…?」
こてんと首を傾げながらそう尋ねてくるのは、少女のようなあどけなさを残した透き通るような青い瞳と青い髪の女性。見た目の年齢はミナトがせいいっぱい高く見積もっても十五、六歳といったところである。表情は乏しいがその見目麗しいという言葉を体現したかのような整った顔立ち、細身の少女体形と相まって透明感と可愛らしさを極限まで高めたかのような容姿をしていた。デボラが身に纏っている鮮やかな赤を基調とした民族衣装風の装いによく似た衣服を身に着けているがこちらは澄んだ青を基調とした色遣いとなっている。
「ブルードラゴンは常温で飲むのかな?」
ミナトがそう問いかける。そう、彼女こそがブルードラゴンの長である。ベルモットの存在を確認したミナトの絶叫の後、ミナトが異世界でバーテンダーという職業に就いており彼の技をもってすれば酒をもっとうまく飲めると改めてシャーロットが説明した。そのことにブルードラゴンたちが興味を持ち、
そんなブルードラゴンの長がこくんと頷く。掛け値なしに『かわいい…』と思ったことを今は考えないことにするミナト。
「ワインの保存温度がそれほど高くない常温だから…、その温度で飲む…」
なるほどと思うミナト。
「これは常温だと少し飲みにくいと感じる人がいるかもしれない…。だけど冷やしてストレートとかロック…、ソーダ割りとかにすれば美味しいと言ってくれる人が結構いると思う。おれのいた日本って国ではそこまでメジャーな飲み方ではなかったけど世界的には結構飲まれていると思う。それにベルモット・ロック…、なかなかカッコいい飲み方だと思うんだけど…。ロックだとタイミングとしては食前酒か食後酒かな…」
「……ロック?飲み方…?」
また可愛らしくこてんと首を傾げる。超絶美形のエルフや健康的な美しさを極限まで高めたレッドドラゴンとは全く異なる魅力が凄い。
「まずはそれからにしようか…。まずは君とシャーロットとデボラに作るよ。このテーブルを借りるね。シャーロット!ロックグラスと氷をお願いできる?バースプーンとメジャーカップもお願いします」
人化しているブルードラゴンの魅力を振り払ってミナトはシャーロットにお願いする。ブルードラゴンたちは何が起きるのか興味津々の様子だ。
「はい!これでいいかしら?」
マジックバッグからロックグラスを三つ取り出したシャーロットが水魔法でちょうどいい大きさの氷を二個ロックグラスに出現させた。
「ありがとね…」
笑顔のシャーロットに自身も笑顔を向けつつミナトはバースプーンでロックグラス中の氷を回す。グラスの氷をほんの少し溶かしつつグラスの温度が下がっていることを確認すると、そこにデキャンタグラスのような大きめのガラス容器に入っている淡い黄色のベルモットをジガーとも呼ばれるメジャーカップで四十五mLを注ぐ。バースプーンで軽く回して出来上がり…。それを三杯。
「どうぞ!ベルモット・ロックです」
言葉と主に三つのロックグラスを彼女たちの前に出した。
「スキルを使った気配がないのに動きが完成している…。とてもキレイ…。そしてボクが見たこともない所作…」
ロックグラスを前にしてブルードラゴンの長がそう呟く。
「相変わらず素敵な身のこなしでカクテルを作るわね…。さあ、あなたも味わってみて!私も頂くわ!」
素敵な笑顔でシャーロットが言う。
「マスターの作るカクテルにはいつも驚かされる。期待していいぞ?マスター!我も頂こう!」
同じくデボラがグラスを持つ。
そうしてシャーロットとデボラが先行してロックグラスをその美しい唇へと運んだ…。
「これは…、香草の香りね…、それとワイン由来のほのかな甘みと酸味…。美味しいわ。これは落ち着いてゆっくり飲むお酒ね。さっきミナトが言っていたけど私としては食後酒かしら…、楽しい食事を楽しんだ後にこういったお酒でゆったりしながら話に花を咲かせる…、そういった場を彩るお酒のような気がするわ!」
「食後のBarでベルモット・ロックを頼む女性…。かなりカッコいいと思う…」
「ふふふ…」
ミナトが漏らしたシャーロットからの評価の感想に嬉しそうに笑顔となるシャーロット。
「我としては食前酒としてもいいのではないかと思うぞ?すっきりとしているからまずこれで気分と舌を整えて食事に向かう…。そういう飲み方もよいではないか?」
「それだとロックもいいし炭酸水で割ってもいいかもね。とてもいい飲み方だと思うよ」
「うむ!」
ミナトの言葉に満足そうに頷くデボラ。
二人ともベルモット・ロックを美味しいと感じてくれているようで嬉しいミナトである。その様子を無表情で見ていたブルードラゴンの長はロックグラスを手に取った。
「頂きます…」
その言葉と共に静かにロックグラスを口へと運ぶ…、
「……………………………美味しい…」
しばらくしてそんな呟きが漏れた。目を見開いて驚いている。そしてベルモット・ロックの味を確かめるように再度ロックグラスを口へと運んだ。
「ん!美味しい!」
今度は力強い言葉が返ってくる。その表情には満足げなとびきり可愛い笑顔が浮かんでたた。
どうやら気に入ってくれたらしい。その様子を満足げな笑顔でミナトは眺めるのであった…、が
『次はマティーニだね…』
同時にそんなことを思っていた。
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