第136話 ブルードラゴンが造るお酒

「……ということでミナトは異世界からきた人族で今は私のパートナーなのよ。今はルガリア王国の王都でBarというお店を経営しているの。闇魔法のレベルが大変なことになっているけど、転生の影響だと思うし魔王ではないわ。あの時の魔王は完全に消滅したから復活することはあり得ない」


「マスターとシャーロット様は王都に店舗を入手するために炎竜の紅玉レッドオーブが必要となり、そのために火のダンジョンにある我らの里を訪れた急襲したのだ。その結果、我もマスターの特殊なスキルによってデボラという名前とさらなる力を得た。いにしえの盟約を破ったわけではないぞ!」


 結構な時間をかけてシャーロットとデボラが涙を流しながらふるふると震えていたブルードラゴン達にミナトのことを説明した。デボラの説明中にシャーロットが『急襲って聞こえたような気がしたのだけど…?』と怪訝な表情を浮かべたのだがデボラが冷汗をかきつつスルーしたのは言うまでもない。


「ん、シャーロット様のパートナーが人族とは俄かに信じがたい…。だがミナト殿という人族については理解した。それで何故この里に?」


 シャーロットとデボラの話を聞き、少なくとも自分達を滅ぼしに来たわけではないことを理解したブルードラゴンたちは落ち着きを取り戻したらしい。ミナト、シャーロット、デボラの前にブルードラゴンの長と思しき個体を先頭にキレイに整列していた。


「目的は二つあるわ。とりあえずは水竜の紅玉ブルーオーブね。ルガリア王国の貴族間に争いがあるみたいなの。私たちはちょっとだけそれに関わっているのだけど、その争いのせいで地上の神殿に安置されていた水竜の紅玉ブルーオーブが破壊された。私たちが関わっている貴族には必要なものらしいから、その代わりとなる水竜の紅玉ブルーオーブが欲しいわ」


「ん?昔、ボクが地上で水浴びをしていた時にあげた覚えが…。まあ水竜の紅玉ブルーオーブの一つくらい問題ない。持って行って」


『よかった。どうやら最低限の目的は達成できる』


 ミナトは心で安堵する。


「もう一つの目的は?」


 ブルードラゴンの長がシャーロットに問いかける。


「私としてはむしろそっちの方が主な目的ね。あなた達お酒を造っていたわよね?確かほんのりワインに似たちょっと変わった味のお酒…」


「ん。ボクたち…、というかこの世界の属性を司るドラゴンはみんなお酒を造っている…。レッドドラゴンたちは酒精の強いお酒。ボクたちはワインと強化ワイン」


「!?」


 ブルードラゴンの言葉にミナトが激しく反応する。


 ほんのりワインに似たちょっと変わった味の酒…、その酒にミナトは心当たりがあった。その呼び名が強化ワイン…、それがもしミナトの思う酒であったら…、


「強化ワインってどんなワインですか!?」


 鬼気迫る表情と共にいきなり問いかけられて驚いているブルードラゴンだが先ほどのミナトの闇魔法の威力をその身をもって経験しているため、抵抗することもなく目に若干の恐怖を浮かべながらおずおずと答える。


「ん…、え、えっと…、ボクたちは水の大樹の魔力を使って天候を操作しブドウを栽培して赤ワインと白ワインを作る。白ワインを一族に伝わっている方法で加熱し、香辛料やハーブを加えて寝かせたもの…。酒精がワインよりも強いから強化ワインと呼ばれている…、でも…」


 ブルードラゴンの回答を聞いて既に感極まっているミナトであるが、


「でも?」


 とりあえず続きを聞くことにする。


「強化ワインはおススメしない。ボクたちは一族の伝統として作っているけど強化ワインそれだけでは何か違うと感じている。不味いわけではないけれど。赤ワインや白ワインは肉や魚介と相性が良いが強化ワインは少し違う…。一族に伝わる話では何かと合わせることで真価を発揮すると言われているがボクたちは分からない…」


 そこまで聞いてミナトは完全に確信した。


「ベルモットきたぁぁあああああああああああああああああああああ!!」


 本日、三度目となるミナトの絶叫が水のダンジョンの最下層に響き渡る。ブルードラゴンだけでなく、シャーロットとデボラも思わず顔を見合わせた。


「ジンもある…、ビターズも見つけた…。ついにマティーニを手に入れたぞ!!!」


 歓喜に打ち震えるミナト。思わずア〇スソードを手に入れた某戦士のセリフを叫んでしまうのであった。

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