第135話 ミナトは全力で否定する

 デボラの時と同じであるなら飛んで行ったブルードラゴンはきっと無事。そう考えたミナトは改めて周囲を確認する。どうやらそれほど大きくないホール上の空間に落下したらしい。落ちてきた天井には大きな穴がありそれ以外は青空のように澄んだ明るい空色だ。この明るい空間は第一階層などと同じ構造らしい。かなりの水が第十階層の大穴へ流れ込んでいた筈なのだが、天井の穴からはさらさらと静かに水が流れ落ちるだけで、あの大量の水はどこにいったのかという状態だ。


「ううう…、まさかのシャーロット様…。完全に予想外…」


 先ほど飛んで行ったブルードラゴンがそう呟きつつ戻ってきた。どうやらデボラと同じようにこのドラゴンが代表らしい。恐らく名前はまだないのだろう。それ以外のブルードラゴンは全てがの姿勢をしている。


『レッドドラゴンはいたけどブルードラゴンはまたリアクションが違うんだ…』


 そんなことをミナトが思っていると、


「ふふふ…、改めて久しぶり!元気だった?」


 再び笑顔でシャーロットが話かけた。


「ついさっき一族が皆殺しにされかけ…」


「そう!元気そうでよかったわ!」


 竜の姿のままジト目で返答しようとしたブルードラゴンの話をバッサリ切ってシャーロットが納得した。レッドドラゴンの時もそうであったがシャーロットは基本的にこの属性を司るという伝説的なドラゴンには強気である。過去に何があったのか気になるミナトであるがそのことには触れないでおこうとそっと心に決めていた。


「その様子は間違いなくシャーロット様…。久しぶり。それと…、レッドドラゴンの長…?前となんか雰囲気が…、そして異常なほど強くなってる?」


 ブルードラゴンはシャーロットの傍らにいるデボラへと視線を移しながらそう言った。


「久しいな!レッドドラゴンではあるのだがいろいろとあってな…。いまの我は火皇竜カイザーレッドドラゴンのデボラだ!」


 デボラの答えにブルードラゴンが目を丸くする。


「キミが名前を付けられた…。まさかシャーロット様の眷属に?破滅願望があったの?


「何ですって?」


 ブルードラゴンの言葉になにやら言外の意味を感じ取ったのかシャーロットがブルードラゴンを睨む。周囲の空気が一段冷えた。びくっと震えるブルードラゴンの長。みるみるうちに大量の冷汗がブルードラゴンの全身から滲み出る。


『だったら言わなければいいのに…。きっと本来は仲がいいから言えるのだろうな』


 ミナトは呑気にそんなことを考えた。


「まあいいわ。違うわよ。私の眷属じゃないわ!ミナトのよ!」


「そうだ!我はマスターの眷属となり存在が進化したのだ!」


 シャーロットとデボラはそう答えてミナトの方を指し示した。それに合わせてブルードラゴンも視線をミナトへと移す。


いにしえの盟約が破られ新たなる魔王がレッドドラゴンを眷属に…。そして魔王がシャーロット様と手を組んだ…。世界を滅ぼす手始めとしてボクたちを皆殺しに?」


 とんでもないことを言いだした。


「誰が新たなる魔王だ!」


 思わず突っ込むミナト。


「こうなっては是非もなし…。ボクたちは長いこと生きることができた。もう少し生きていたかったけど悪い人生じゃなかったし…」


 ミナトのツッコミの効果もなく目に涙を浮かべながら達観したような台詞を言い始めるブルードラゴンの長。周囲のブルードラゴンたちからもすすり泣きが聞こえてくる。竜なのに人生とか言っているがもうそこにはツッコむ余裕がミナトにはなかった。


「待って!違う!違うから!魔王じゃないから!誰も殺さないから!ほら!シャーロット!デボラ!笑ってないで説明してよ!」


 慌てるミナトを楽しむかのようにシャーロットとデボラはお腹を抑えて笑いをこらえている。


「おれは魔王じゃなーーーーーーーーーーーーーーい!」


 二度目となるミナトの絶叫が水のダンジョン最下層に響くのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る