第134話 水のダンジョンでの遭遇と無双
轟音が水のダンジョン最下層に響き渡る。それと同時にかなりの衝撃と凄まじい高さの水
「イテテ…、あれ?シャーロットが結界を張っていた筈なのにちょっと痛い…?結界が消えている…?」
身を起こしたミナトは周囲に視線を向けるが水
「シャーロット!デボラ!大丈夫だった?……………あれ?いない…」
辺りを見回すが小舟の上にはミナト一人。相棒であるシャーロットとデボラの姿がそこにはなかった。
「ええっと…、二人とも大丈夫かな…」
そんなことを呟きていると徐々に視界が明るくなってきた。水
『この反応は何?』
咄嗟にミナトは身構え、いつでも闇魔法を発動できるように警戒した。視線の先に巨大な何かの存在を感じ取ったのだ。それも一つや二つではないかなりの数。
「侵入者に告ぐ!この水のダンジョン最下層に何の用?」
唐突に声をかけられ驚くミナト。その視線の先には宙に浮く艶やかな青い鱗を纏った複数のドラゴンがいた。紅く輝く鱗を持つ竜の姿になっているデボラをちょうど色違いにしたようなフォルムである。ミナトは眼前にいる竜がシャーロットとデボラの言っていたブルードラゴンであることを直感した。
「えっと…」
どうやらデボラたちに出会った時のようにいきなり戦闘が始まることはないと考えたミナトがとりあえず自己紹介をしようと口を開く。
「む…、その姿は人族?人族があの穴からここまで来れるわけがない…。何者?」
ブルードラゴンの長だろうか…、代表して声をかけてきたひときわ大きなブルードラゴンが怪訝な表情を浮かべる。
「いやいや!一応おれは人族で…、その…」
何かよくないことが起こりそうな気配を察知したミナトが慌てて弁明を始めるが、
「それにその魔力は闇属性…。そしてスゴイ魔力量…。魔王の眷属?それとも新たな魔王?ついに新たな魔王が誕生しボクたちを根絶やしにしようとやってきた?」
その言葉にミナトは慌てる。警戒のため闇魔法を準備したのが裏目に出たらしい。これと似たような展開が火のダンジョンでもあった。
「違います!おれの名前はミナト!F級の冒険者で…」
必死になって誤解を解こうとするミナト。しかしブルードラゴンはミナトの言葉を無視して続ける。
「古の誓いによりボクたちが魔王に与することはない!力づくでというのなら戦うのみ!」
何やら決心を固めるブルードラゴン。
「ねぇ!お願い!お願いだから話を聞いて!!」
絶叫するミナトを無視してブルードラゴン達がその口を開く…、と同時に膨大な魔力がブルードラゴン達の口に集まり始めた。どうやらミナト目掛けて集団でブレスを吐くことに決めたらしい。
『ドラゴンって初めて出合った相手の話は聞かない…、みたいな習性でもあるのか?』
絶叫はしてみたが妙に落ち着いた状態でそんなことを考えるミナト。圧倒的な闇魔法の力があるとはいえミナトの肉体は脆弱な人族のそれである。たとえ一体であってもブルードラゴンのブレスを浴びれば絶命は必至。そんなブレスを夥しい数のブルードラゴンが放とうとしているにも関わらずミナトは極めて冷静であった。【保有スキル】泰然自若が絶好調で作用しているらしい。
【保有スキル】泰然自若:
落ち着いて、どの様な事にも動じないさまを体現できるスキル。どのようなお客様が来店してもいつも通りの接客態度でおもてなしすることを可能にする。
そんなスキルの力に助けられたミナトはブルードラゴンたちを無力化させることにした。
「少し落ち着いてくれ!
ミナトの足元にある影から漆黒の鎖が出現する。うにょうにょと触手のように有機的な動きをする無数に出現した漆黒の鎖は瞬く間にブルードラゴンたちに襲い掛かり、その五体に巻き付き拘束する。
「「「「「え!?」」」」」
そんな言葉と共にブルードラゴンたちの口元へと輝かんばかりに集められていた魔力が霧散し、宙に浮いていた巨体が落下を始めた。
【闇魔法】
ありとあらゆるものが拘束可能である漆黒の鎖を呼び出します。拘束時の追加効果として【スキル無効】【魔法行使不可】付き。飲んで暴れる高位冒険者もこれがあれば一発確保!
その解説文の通りなのかドラゴンのブレスも空中への浮遊もスキルまたは魔法と判定されたらしい。どうやらミナトたち一行が乗った小舟が落下した場所は水深が五十センチほどの浅瀬のようで、次々とその浅瀬へドラゴンたちが落ちてくる。
『よくおれは無事だったな…』
そんなことを思いつつ小舟を降りたミナトは浅瀬を歩いて声をかけてきたひときわ大きいブルードラゴンの元へと移動した。
「無念…。ボクたちが手も足も出ないとは…。殺すがいい…。その覚悟はできている」
物騒なことを言ってくるブルードラゴン。
「いやだから話を聞いてくれ!おれは人族でF級の冒険者をしてるミナトという者で…」
「人族の冒険者がここに到達できるわけがない」
「いや…、だからおれは一人でここまで来たわけじゃ…」
堂々巡りを始めそうな会話にミナトがシャーロットとデボラの名前を出そうとしたとき、
「ミナト!お疲れさま!カッコよかったわよ!」
「うむ。ブルードラゴンの群れを一瞬で無力化とは、見惚れてしまうとはこのことだな!」
明るい声色でシャーロットとデボラが姿を現した。
「シャーロット!?火のダンジョンの時と同じことを…?」
ミナトが半目になってそう呟く。
「いいじゃない?この方があなたの強さをこの子たちに理解させやすいでしょ?」
「魔王認定されそうだったけど…」
さらにジト目でミナトが訴える。
「ま、まあ…、攻撃力はあの頃の魔王を軽く凌駕しているから…」『ここまで強いとあながち
シャーロットの視線が泳ぐ。
「シャーロット?いまおれが諦めなきゃいけないようなよくないことを考えたよね!?」
悲壮な声を挙げるミナトをスルーしてシャーロットは漆黒の鎖に拘束されているブルードラゴンたちに向き直った。
「みんな!久しぶりね!」
その姿、その声を聴き、絶世の美女を前にしてブルードラゴンたちは目を見開いて完全に硬直した。ひとしきり時間が経過した後、長と思われるひときわ大きな個体が代表するかのように口を開いた。
「な、なぜ破滅のま…」
ドゴオォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!
何かを言いかけたブルードラゴンが鎖に拘束されたままに爆風に巻き込まれて飛んでいく。
『デボラの時と同じだ…。やっぱり触れてはいけない彼女の過去に触れたんだろうな…』
そう心の中で呟きつつブルードラゴンの無事を祈るミナトであった。
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