第132話 水のダンジョン最下層への道
「これは凄い…」
ミナトは眼下に広がる光景を前に呆然としてそう呟く。
水のダンジョンの第十層。第九層からの階段の出口は広大な第十層を見下ろすことができる山とも表現できそうな丘の頂上にあった。この丘を中心にフィールド全方位に広がっている。先程までの階層とは異なり第十層は暗かった。しかしただ暗いわけではない。天井の所々が光り輝き美しい星空の様相を呈し、なぜか月のようなものまである。それらが空間を照らすことにより第十層のフィールドを蒼く浮かび上がらせていた。
「そして水のフィールド…」
その呟きが示す通り第九階層からの出入り口がある丘以外の一面が水に覆われていた。水の透明度は高いようだが水深は暗くてよく分からない。どうやらかなりの水深があるようだ。
「え…?あ、あれって…」
ミナトの視線の先、水のフィールドのど真ん中、直径五百メートルはあるかという大穴が口を開けていた。大穴の周囲は全方位から凄まじい勢いで水が流れ込んでおり、大穴の形をした巨大な滝となっている。
「うーん…。久しぶりに来たけどここは変わらないみたいね!」
のびーっと背筋を伸ばしながらリラックスした口調でシャーロットが言ってくる。
「マスター!かつての通りならこの階層に魔物は出現しない。気を楽にしていいぞ!」
デボラも気楽な口調でそう伝えてきた。
「ここは土属性の魔法を使って舟を作らないと先に進めないのよね。ということで行きましょう!」
「うむ。我一人だけなら飛んでいくのだが、今回は舟に乗らせて頂く所存だ!」
美形二人が率先して歩き出すのでミナトは彼女たちの背後を追いかけるのだが…、
「シャ、シャーロット?舟で移動するんだよね?」
それに気が付いたミナトが思わずシャーロットに声をかけた。
「ええ。魔物はいなくても泳いでって訳にはいかないでしょ?舟で快適に進むのがポイントよ」
「い、いや…、そうじゃなくてさ…。この方角って…、あの大穴というか大瀑布というかがある方向だけど…、なんで全方位に行けるフィールドでそっちに…?」
聞いてはみたがミナトの心の中では既に警戒のアラーム音が鳴っている。このダンジョンに来る前…、彼女たちは何と言っていたか…。
『シャーロット様?我らは例の方法で最下層を目指すということでよいのか?(ニヤリ)』
『もちろんよ、デボラ!あの方法が一番簡単だし楽だもの!(ニヤリ)』
そんな念話をしていた二人の美しくも邪悪な雰囲気を漂わせる笑顔を思い出す。ミナトたちは水のダンジョン最下層を目指している。そして目の前にあるのは巨大すぎる大きな穴…。
「うふふ…(ニヤリ)」
同じ笑みを返される。
「嘘だといってよ、シャーロット…」
思わず悲劇的なアニメのサブタイトルを使ってしまうミナト。あの劇中にこの台詞は出てこないとか大本はメジャーリーグだっけとかいらないことが素早く脳内を走り去っていった。
「マスター!これが一番簡単な方法というのは本当だ!大丈夫!すこし…、すこし…、か…?ま、まあ…、最下層まで落ちるだけだ!」
「デボラ?いまの少しってところ自分で言っているのに疑問形だったよね!?それってめっっっっっっっっっちゃめちゃ落ちるんじゃない?だよね!?そうだよね!?」
ミナトが慌てる。なぜか【保有スキル】泰然自若が効果を発揮していないらしい。
「ミナト!ここからさらに下の階層はデス・マーマンとか、デビル・アリゲーターとかジャイアント・フロッグよりも大きくて強い魔物がさらに数多く群れで出現するの。私たちには斃せる魔物だけどここまでに斃したカエルの千倍どころでは済まない数の魔物を相手にすることになるわ。第百五十階層に到達するまで際限なく戦うことになるのよ…」
「そ、それはちょっとイヤだ…」
ミナトは顔を顰める。体力、魔力に問題はないがここまででも精神的には結構疲れたのだ。
「でしょ?そこでこの方法よ!水のダンジョンの最下層までの行き方は二つ。魔物を斃しまくるか、あそこから最下層を目指すかというわけ」
そう言ってシャーロットは水がとうとうと流れ込み続ける大穴を指し示した。
「くっ…。前の世界では
思わずそんなことを口走るミナト。
「ミナト…?何の話…?」
「マスター…?」
美女二人の表情に大きな疑問符が浮かんでいた。
「い、いや…、おれの前にいた世界にはこういったことを娯楽にして楽しむ習慣があったんだ…。正直おれは苦手だったけど…」
「あなたの世界ってやっぱり変わっているわね…」
「面白いことを考える者がマスターの世界にはいたのだな…」
「多分、こっちの世界よりも命が軽くなかったからかな…。人工的にスリルを感じたい人って人が結構いたんだよね…」
そういった環境ならそんな人が出てくるかもね…、ということで二人には何となく納得してもらう。そんな話をしているうちにミナトたちは丘を下り終わり波打ち際まで到達した。
「いくわよ…。
シャーロットの詠唱と共に地面の土が小舟を形作り始める。呆れるほどの一瞬で土製の小舟が出来上がる。三人で乗るには十分な大きさであった。
「これで完成!それを風魔法で…」
出来上がった小舟が水面へと浮かべられた。乗り込んでみると乗り心地は悪くない…、というかむしろ良かった…。だがミナトの脳内にタヌキとウサギの昔話が
「ここの水には特殊な魔力が流れていてここから舟を出せばあの穴に向かうようになっているの!そういうことで…、いざ!しゅぱーーーーーーつ!!」
「マスター!ここまで来ればあと一息といったところだ!楽しまねば損だぞ?」
意気揚々と船出を楽しむ絶世の美女二人に比べてミナトの顔色は少しだけ悪かった。
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