第130話 水のダンジョン探索開始

「群れで…、飛んでいる…?」


 その光景を見たミナトが呆然と呟いた。ここは水のダンジョン第三階層。人族や亜人が到達できる最下層とされ上級冒険者以外は潜ることはないとされている。


 水のダンジョン第一階層と第二階層は広大な湿地帯であり、ダンジョン内の天井には太陽は無いにも関わらず明るい青空が広がっており見通しの良い空間であった。ここには五十センチ程のカエルの魔物、スモール・フロッグがでるらしい。この魔物が落とす宝石は魔力を通しづらいという性質があり魔道具作りには必須の部品となるのだとか…。冒険者ギルドの説明文でそれを読んだミナトは『電子部品の抵抗みたいなもの?』などと呟きシャーロットとデボラの表情に疑問符が浮かんだりもした。


 それはともかく、カエルの魔物は弱く宝石は比較的高値で取引されるため、かけだしや低級の冒険者に人気がある。その説明の通り多くの冒険者パーティが活動していたが、ミナトたちはそんな冒険者達の邪魔にならないよう注意しつつ第一階層と第二階層を素通りした。


 そうして下に降りる階段を見つけて躊躇なく降りたミナト、シャーロット、デボラ。第三階層に到着して目の当りにした光景を前にミナトが呟いたのが冒頭のセリフである。


 第三階層は湿地ではなく緑豊かな陸地と澄んだ水で満たされている沼地に分かれたフィールドになっていた。冒険者の姿は全く見えない。空は相変わらず明るい青空が広がっている。不思議なことに風も吹いており何もいなければピクニックに行きたくなるような空間だ。そう…。


「そしてデカくない?」


 次の呟きが漏れた。ミナトの眼前には巨大なカエルの群れ…、空飛ぶカエルの群れがいた。問題はその飛距離。跳ぶではなく飛ぶとしか言えない距離を飛んでいる。そしてその巨体は二メートルほどある。


「あれがこの階層の魔物ジャイアント・フロッグね」


 シャーロットがそう言ってくる。


 ギルドの説明文によるとジャイアント・フロッグを斃した時にドロップする魔石には魔力を一定に保ったり、保存したりする効果があり、複雑機構を内包する魔道具には必ず使われており高額で取引されているとのことだった。ちなみにそれを読んだミナトが『こっちはコンデンサ?』と呟いたこととその後のシャーロットやデボラが先と同じ表情になったことをここに記しておく。


 しかし説明文はそれで終わらず警告文が大きく赤字で記載されていた。曰く、『レベル三、個体によってはレベル四と想定されえるような水属性の攻撃魔法を使ってくることが報告されています。くれぐれも自身の実力を見極めた上で第三階層に挑戦してください』とのことだった。


 そんなことを思い出していると直径が一メートルほどの水球がミナトを狙って勢いよく飛んできた。


「これが攻撃魔法?」


 そういうミナトの足元の影から漆黒の鎖が出現する。漆黒の鎖が水球に触れるとそれは音もなく霧散した。


「相変わらずの魔力操作ね」

「人知を超えた技術と言えるな…」


 絶世の美女二人がそんなことを言ってくる。


【闇魔法】悪夢の監獄ナイトメアジェイル

 ありとあらゆるものが拘束可能である漆黒の鎖を呼び出します。拘束時の追加効果として【スキル無効】【魔法行使不可】付き。飲んで暴れる高位冒険者もこれがあれば一発確保!


 悪夢の監獄ナイトメアジェイルの効果だろうか、この鎖は魔力で造られた水球を消滅させることができるようだ。


「あのね…、君たちだって結界を張っているでしょ?おれは結界なんて張れないからね?その魔力操作は相当に凄いと思うのだけど…」


 たまには抗議をしてみるミナト。


『デボラさん、ミナトったら私たちを完全に無力化できる化け物みたいな鎖を自在に扱っているくせに私たちより弱いみたいなことを言っているわ…』

『全くその通りですわ、シャーロット様。あの鎖に加えて炎や隠蔽、デバフまで使うのですよ…。どんな相手であっても結界を張る前に捕縛から殲滅まで自由自在。その実力は魔王より質が悪いことを自覚してほしいと…』


 どこかのマダムの内緒話のようにヒソヒソ話す動作を見せるが内容は念話でミナトの心に響いてくる。


「なんだろう目から赤くて熱いものが…」


 ミナトが心で血の涙を流している最中も次々と水球が飛んでくるのだが、漆黒の鎖が全て撃ち落としている。この程度の階層にミナトたちの脅威となる魔物などいないが、


「ミナト!話はここまで!ここからは戦闘は避けられないわ!他に冒険者もいないし…、蹴散らすわよ!そして稼ぎましょう!」

「うむ。ここなら炎を使っても問題なかろう。我も続くぞ!」


 好戦的な笑みを浮かべてシャーロットとデボラに周囲に魔力が集まる。


「はあ…。さてと…、がんばって最下層を目指すとしますか!」


 気を取り直してミナトもジャイアント・フロッグの群れに対峙するのであった。

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