第128話 ホワイト・レディとまだ見ぬカクテル
シャーロットとデボラに二杯目のマルガリータを作ったミナトはさらに次のカクテルを用意する。
カウンターに置かれたのはジンのボトル。使うグラスはマルガリータと同じくショートグラスだ。こちらに来て初めて出会った酒がジンとは運命を感じてしまうミナトである。この世界ではジーニと呼ばれルガリア王国だけでなく大陸中で飲まれているポピュラーな酒だというがミナトは自身のBarではジンと呼ぶことにしてしまった。
ビールやワインではなくスピリッツの一つであるジンが主流とは少し驚いたがこの世界では冷蔵や温度管理はかなりの高等技術とされている。醸造酒の長距離運搬は困難なのだろう。しかし蒸留酒があるのに醸造酒がないというのはちょっと考えられない。実際、ウッドヴィル家のような大貴族はワインを嗜んでいる。きっとどこかにビールもあるのだろうとミナトはいつかくる出会いを楽しみにしていた。
ジン、オレンジリキュール、そして今度はレモンが登場する。当然のごとくレモンはレッドドラゴンの里産の極上品だ。スクイーザーでレモンを絞る。
シェイカーにジガーとも言われるメジャーカップを使ってジン三十mL、オレンジリキュール十五mL、レモン果汁を十五mL注ぎバースプーンで混ぜる。ここで味見…、やっぱり美味い。まさに王道の味というやつである。シャーロットが作ってくれた氷をアイスピックでシェイク用の氷に砕くとシェイカーへと入れしっかりとキャップを閉めシェイクする。
「作り方はマルガリータに似ているわね…」
「確かに…、だがカクテルは酒や材料を変えると途端に味が大きく変わる。ジンとオレンジリキュールの相性が実に楽しみだ…」
シャーロットとデボラがそんなことを呟いている。集中してシェイクしていたミナトは十分にカクテルが冷えたことを確認し、それをよく冷えたショートグラスに静かに注ぐ。
それを二杯。カクテルが完成する。
「どうぞ…、ホワイト・レディです」
そう言って二つのグラスをシャーロットとデボラの前へと差し出した。
「頂きます!」
「頂戴する!」
相変わらずとびきりの笑顔でグラスを手にする二人。
「これも美味しい!ミナト!ジンの方がすっきり感じるわ!ジンが好きな人にはこっちのほうがいいのかしら?」
「美味い!マルガリータはスムーズに飲めたと思ったが…。こちらは同じくスムーズに飲めるがジンの風味というかすっきりさが強調されているな。酒を変えるとこれほどに印象が変わるのだな…。これもかなり好みの味だ!」
ホワイト・レディも気に入ってくれたらしい。
「味わいは結構違うけど、作り方はマルガリータに似ているんだ。テキーラでマルガリータ、ジンでホワイト・レディ、ブランデーでサイドカー、ウォッカでバラライカ、ラムで
そう説明するとブランデーとラムが自動的に欲しくなった。この世界のどこかにあるなら手に入れたいと切に願ってしまう。
「ブランデーとラムは初めて聞くけど、オレンジリキュールがあるとそんなにいろいろなカクテルが作れるのね。ミナトがオレンジリキュールを見つけて喜んだ訳が分かったわ!」
「この店にはウォッカがあるではないか!コスモポリタンも興味深かったがウォッカを使ったバラライカも作れるのだな。こちらもまた興味深い!」
よりいっそう目を輝かせる美女二人。
「作り方は似ているけどこれらのカクテルはどれもが主役を張れるくらいに美味しい。だからバリエーションっていうよりかはそれぞれが完成されたカクテルって認識の方がおれは好きかな…」
ミナトがそう説明する。どのカクテルもミナトが得意であり、そしてどれもが人生の一場面を彩ることのできる完成されたカクテルなのだ。
「なるほど主役級のカクテル…。素敵よね!いつかブランデーやラムも手に入れたいわ!」
「うむ。夢が広がるな…」
笑顔で話す二人を見ていると自然とミナトも笑顔になる。
「明日からの冒険に備えて後一杯くらいにしようか?」
「え~!いいじゃない!もう少し飲ませて!私はコスモポリタンとバラライカ!」
「我はバラライカとその次にはジン&ビターズを頂きたい!」
どうやら美女たちはまだまだ飲む気らしい。
「今日飲んでいるカクテルって酒精がかなり強いからね…、それに加えてそのオーダーだと飲み過ぎじゃない?」
「だいじょーぶよ!お・ね・が・い!」
「マスターと我の仲ではないか~」
うるんだ眼でシャーロットが可愛らしく?妖艶な雰囲気を纏いデボラがセクシー?に言ってくる。絶対にからかわれていると頭では理解しているのだが、二人ともが絶世の美女であるため絵だけで見るとその破壊力はなかなかにえげつない。とてもオーダーを断れそうもないミナト。お酒だけは体に悪い…。せめて何か…、と思いナッツの盛り合わせを用意することを決めるのであった。
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