第124話 司祭からの話
ウッドヴィル家の本邸は玄関と思われる扉を中心に左右に広く奥行きもたっぷりとられている三階建てである。広大な敷地内には幾つかの離れもあるようだ。
「急ぎご報告したい事態ってA級冒険者は呼ばれるんだ…。ま、強さだけのF級冒険者では難しい話はできないか…。それにしてもこの魔法…」
【闇魔法】
全ての音や生命反応を感知不能にする透明化に加えて
これまで何度も助けられてきた闇魔法であるが、ステータスに書いてある性能は伊達ではない。モーリアン達のすぐ傍に佇んでいるのだが誰もミナトに気づかない。まさに破格の性能であった。
『悪用したら何でもありな魔法だね…』
物騒なことを思ってしまうミナト。
「誰かアラン殿をゾーラ殿の元へ…。アラン殿、これから先は公爵家が請け負うことじゃ。いずれ詳細は内々に伝えるがお主は何も見ておらず何も聞いていない…。その方がよいであろう…?」
「モーリアン様!ですが…」
何かを言いかけるアラン=ヴィシストを制してモーリアンが続ける。
「お主とゾーラ殿には辺境伯としてフリージア地方を発展させる使命がある。今は夫婦の幸せと新たな領地のことを考えよ。これは儂からの命令じゃ!」
モーリアンの言葉にアランは無言で頭を下げる。ここは承諾するしかなかったようだ。その様子にモーリアンが満足げで頷いているところに一人のメイドが現れる。そのメイドがアランを屋敷の奥へと案内していった。随分と美形なメイドであったがミナトが注目したのはそこではない。
『えっと…、あのメイドさんも暗殺者っぽい…。公爵家で働いているのってみんな
ミナトはそんな心の声を挙げているが、モーリアンたちは話を進めている。
「ブライクよ!
モーリアンが普段とは異なる厳しい表情で執事に問いかける。ガラトナと同じ雰囲気を纏っている執事はブライクという名らしい。それとモーリアンもこういった厳しい表情をするものかとミナトは思っている。これがモーリアンの貴族としてふるまう際の表情なのかもしれない。
「大旦那様!一大事にございます!ヴィシスト様とサンケインズ様の婚姻の儀に与える影響は大きいかと…。私の口からよりも司祭様から直接お話を!応接間でお待ち頂いております!」
今回の旅の目的はモーリアンたちを狙う者達を炙り出すことがその一つであるが、最も重要な目的はイストーリア侯爵ヴィシスト家の次男であるアラン=ヴィシストとマウントニール侯爵サンケインズ家の次女であるゾーラ=サンケインズの婚姻の儀をこのアクアパレスで行いアラン=ヴィシストを辺境伯へと陞爵させることにある。その婚姻になんらかの問題が生じたか…。
「うむ…」
執事の言葉に短く答えると執事の案内で足早に応接間への歩みを進めるモーリアン。他の者達もそれに続く。ミナトも当然のようについて行った。
さすがにウッドヴィル家の本邸は大きい。王都の屋敷も大きかったがこちらはスケールがもっと大きい印象だ。王都の屋敷以上に廊下はたっぷりと余裕がとられ、天井もより高く設計されている。採光率の高い窓と天井には照明の魔道具が取り付けられているところは王都と同じであった。調度品は華美ではないが良質と思われる花瓶や絵画が飾られている。
『こっちの世界の芸術は分からないけどね…』
そんなことを思っていると応接間についたらしい。ドアが開かれミナトも一緒に入室した。
「モ、モーリアン様!こ、此度のこと…、な、なんと…、なんと申し上げればよいか…」
モーリアン一行が入室した瞬間、神官服姿の男性が立ち上がり頭を下げる。明らかに狼狽しており、その声には疲労の色が濃かった。
「ラジョーナス殿、落ち着かれよ。まず何があったのか話してもらいたい」
モーリアンはそう言ってラジョーナス司祭を座らせ自身もソファに腰かける。ミリムがもう一つのソファに腰かけ。A級冒険者のティーニュがミリムの背後に、執事のブライクと騎士のカーラ=ベオーザがモーリアンの背後に立った。ちなみにミナトはミリムの横に座っている。
「じ、実は…、
「むう…、そんなことが…」
司祭の言葉にモーリアンが思いっきり顔を顰める。ミリムの表情にもありありと不安が現れる。
『あ、大変なことになったみたい…』
【保有スキル】泰然自若のおかげなのか冷静になっているミナトは彼らの話に耳を傾けることにするのであった。
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