第122話 そんな名乗りはちょっと…
まっすぐと続く街道には燦々と真夏の日差しが降り注ぐ。日差しは強いが時より吹く風が涼しさを運んでくれる。そのため東京の夏に比べて随分と過ごしやすいと考えるミナト。
「うーん…、こんなに気持ちがいい天気だと護衛の仕事中であることを忘れそうになるわね~」
明るい日差しを浴びて気持ちよさそうに歩いていた美人のエルフ…、シャーロットがミナトの考えを読み取ったかのようにそんなことを言ってくる。
「確かにこんな日はどこかでのんびりするのも悪くないかな…」
そう返すミナト。
「あの丘を越えれば領都であるアクアパレスとのことだ。明日はゆっくりできるであろう?」
もう一人のパーティメンバーであるデボラが言ってくる。
領境の関所を出発して五日。ウッドヴィル家の一行は領都アクアパレスまであと少しのところに来ていた。領都の近くということもあるのか街道を歩く人影は多い。あの襲撃を受けて領都から多くの騎士が上級の冒険者達と共に派遣されたため警戒はより厳重なものとなっていた。ちなみに刺客達は拘束されたまま領都へといち早く連行されている。
ミナト達は一応隊列について移動しているが特には何もしていない。ただ何もしていない理由としては、他の冒険者との諍いを避けたいという側面もあった。
『王都の冒険者ギルドではなんか避けられていたな…。顔を知られていないこっちではテンプレ的な絡まれ方をすると思ったのだけれど…』
フード付き魔導士風のローブを被っていてもシャーロットが美人であることは隠しきれないし、大胆なスリット入りのスカートを履いて堂々と歩いているデボラはどこから見ても魅力的である。
領都からの騎士や冒険者と合流した後、こちらへちらちらと視線を送る者はいたが、絡んでくるものは一人もいない。
『これはあれかな?公爵家がおれ達に手出しするな、みたいなお触れでも出したとか…?』
『ありえるんじゃない?ミナトは刺客達をあっさりと無力化したし…、私達は結構な魔法をぶっ放したからね?』
ミナトの呟きが念話になって飛んだのかそれを聞いたシャーロットがそう返してくる。
『ふむ…、
デボラの念話にシャーロットが同意を示す。
『デボラの言う通りね!公爵家にとって私たちは等級が低いけど強い冒険者ってことで認定されているかもしれないわ!普段はBarで働いているけれど、その裏の顔は知る人ぞ知る凄腕の魔法使いたち!なかなかいいんじゃない?』
笑顔で念話を飛ばしてくる。
『どこかの危ない地下組織みたいでなんだか…』
ミナトは少し項垂れる。
『構成員は大量のレッドドラゴン達。幹部はエルフの私と
『それって地下組織どころじゃないよね?世界に覇を唱えるヤバい集団だよね!?そして王都の魔王って何!?何その聞いたことがないフレーズ…』
精一杯抗議するミナト。
『王都は住みやすく良い街だからな!下手に魔王城などを築くよりずっと楽しく暮らせるぞ!』
『デボラ…、そういうことじゃないのだけど…、おれは普通にBarを経営しながら世界を見ることができればと…』
ミナトの念話がどんどんと小さくなる。
『世界を見て回るついでにドラゴン達に会って今の構成員に他のドラゴン達が加わって…』
『シャーロット…、もう…、ユルシテクダサイ…』
心の中でしくしくと涙するミナト。それ以上は考えたくなかい。
『チートって嬉しいものだと思ったけど、別に世界征服したいわけじゃないからな…』
『力はあって損するものではないわ!要は使い方よ!』
『うむ!マスターはその力で道を外れぬように人生を楽しめばよいのだ!』
『そうなんだよね…』
そんな念話を交わしながら歩みを進めると隊列はついに丘を越える。
「おお!」
「街は少し変わったけど湖はあの頃のままね…」
「水の都…、古都ガーライか…。我にとっては懐かしい光景だ…」
丘の上から見た絶景に三人はそれぞれに声を上げた。三人の視線の先にはシャーロットが神秘の湖ヴィナスハートレアと呼んだ美しい湖に隣接し、無数の水路が張り巡らされた広大な街があった。
「あれがミルドガルム公爵ウッドヴィル家の領都アクアパレス…」
一体どんな冒険が待ち受けているのか…、ミナトは街の光景にその心を躍らせるのであった。
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