第119話 カーラ=ベオーザの問い

「ミリム様!あの冒険者達は何者なのですか!?」


 ウッドヴィル家の騎士でありルガリア王国の王都でウッドヴィル公爵家が統括している麗水騎士団で副団長も務めているカーラ=ベオーザが公爵の長女であるミリムに問いかける。


 ここは領境に建てられた要塞のような関所に造られた会議室の一つ。既に正午は過ぎている。


 シャーロットとデボラの活躍で魔物の群れとの戦闘から解放されたカーラは隊を二つに分けた。馬も二台の馬車も無事だったので、元から騎乗してきたカーラ達は先行して関所を目指し、残りの騎士やA級冒険者のティーニュは二台の馬車と共に関所を目指すこととした。二台の馬車と共に行動している者達は未だこちらへ向かっている最中の筈である。


 カーラ=ベオーザは関所に到着するとすぐにモーリアン、ミリム、もう一人の護衛対象であるイストーリア侯爵ヴィシスト家の次男であるアラン=ヴィシストが待つ会議室へと通された。そこでの開口一番が先ほどの台詞である。


「落ち着くのだ。カーラよ。ひとまず席につけ」


 そう言ってカーラを制したのは先代公爵であるモーリアン。先代公爵にそう言われた以上、騎士であるカーラは押し黙りその言葉に従い手近な椅子に腰を下ろす。


「さてと…、まずは此度の魔物との接敵の件だが、我らはこのように関所に無事到着した。そして騎士達にも死者はなかったと聞く。大儀であった」


 モーリアンの言葉を聞いていたカーラが立ち上がるとその頭を下げる。


「申し訳ありません!魔物の群れに不覚を取りました!あのように魔物達の接近を許すなど…」


 震える拳は今にも血が滴り落ちそうなほどに握りしめられている。


「此度の我らが関所までに至る過程に関してそなたにも思うところがあることは儂にも分かる。しかしな…、まずはそなた達の働きを労いたいのじゃよ。無事で何よりであった」


 ウッドヴィル公爵家は部下である騎士達に賞賛や褒美を惜しむことをしない家である。しかしその優しい言葉が今のカーラにはつらかった。


「で、ですが…、我々だけではあの魔物達を討伐することは叶わず…」


「そのことに関しては優秀な冒険者が我らの味方であったことを僥倖とすることでよい。今回の移動で想定を上回る事態が起こることは十分に考えられたことじゃ。なにせ儂やアラン殿を狙う輩を炙り出すことが目的なのじゃからな。その対策としてミリムを助けた凄腕の冒険者に依頼を出し、その冒険者が活躍した。ただそれだけのことよ。お主には納得がいかないかもしれぬが、上には上がいるのが世界の理というやつじゃ。巨大なジャイアントディアー五体を瞬殺したという話も今なら信じられるのではないか?」


 その言葉にカーラは声もなく俯いた。


 これまでの経緯はミナトたちが予想していた内容とほぼ同じで…。


 騎士が無能なのではなく、有能な騎士がいてもどうしようもない事態が発生する可能性が高い。そのための手段としてミナト達パーティに護衛の依頼を出す。その提案をしたのはミナトたちが魔物を瞬殺する様子を目の当りにしたミリムである。しかしF級冒険者を護衛に加えるという話はカーラをはじめとするウッドヴィル家の高位騎士達には受け入れることが出来なかった。高位の冒険者ならいざ知らず、たかがF級冒険者ごときが我々騎士と肩を並べて護衛につくとは…、というやつである。


 この移動に関する会議の場でミリムの提案はカーラ達から反対された、そこでモーリアンがウッドヴィル家の騎士と模擬戦をして戦力になる冒険者を採用するという折衷案を出し、現公爵であるライナルト=ウッドヴィルが承認し、同時にライナルトがA級冒険者のティーニュにも依頼を出すよう指示をしたのである。これにはカーラ=ベオーザ達も反対することはできなかった。


 なぜモーリアンやライナルトがそのような提案をしたかといえば、モーリアンだけでなくライナルトも公爵家の知恵者であるミリムのことを全く疑っていなかったからである。初めてミナトたちに会った時、ライナルトから発せられたミナト達の実力を疑うような発言は騎士達へのガス抜きの意味合いであった。


「そ、それで…、ミリム様!モーリアン様!あの冒険者は何者なのですか?」


 カーラは改めて最初の質問を口にするのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る