第118話 ジン&ビターズ完成
ミナトは今回の道中で出会ったウッドヴィル家に伝わる気付けの小瓶改めオレンジ・ビターズを使ったカクテルを作る。
最初に小さめのリキュールグラスにオレンジ・ビターズを数滴振り入れる。本来はトリニダード・トバゴ産でベネズエラの古い街の名がついたビターズを使うのだがこの世界にその街はない。そのビターズとは出会えない可能性が高いだろう。だからこれでいいのだと自分に言い聞かせて作ることにする。
オレンジ・ビターズが振り入れられたリキュールグラスを持ち傾けるとクルクルとまわして満遍なくリキュールで濡らす。そうして余分なリキュールを振り払ってテーブルにリキュールグラスを置いた。
「ミナト?ジンを冷やさなくていいの?」
シャーロットが聞いてくる。
「えっと…、おれのいた世界の話だけど…、現在では冷やしたジンを使う方が多いと思う。でも最初に作られたときは多分常温なんだ…。だから二人に飲んでもらう最初の一杯は常温にしようかと思って…。二人ともジンを常温で飲めるでしょ?」
ミナトの問いにシャーロットとデボラが笑顔で頷く。
「もちろんよ。冷やしたジンもミナトが作るジンを使ったカクテルも美味しいけど常温のジンはあれで美味しいのよ」
「うむ。我もたまには
という回答を得たのでカクテル作りを続ける。とはいっても残された工程はあと僅かである。ミナトはオレンジ・ビターズで濡らされたリキュールグラスにジンを静かに注ぐ。これで完成。それを二杯作成する。
「はい。ジン
透明な筈のジンがリキュールグラスの内側に薄く纏われたビターズによってほんのりとロゼ色になっている。本式であれば明るい茶色と評するところだが今回のオレンジ・ビターズの影響だろう。
ちなみにロゼ色と言ったがピンクではない。通常、高級とされる銘柄のロゼ・シャンパンはピンクではなく明るい玉ねぎの皮の色のようなものが多い。スペインのカバなどではなくシャンパーニュ地方で造ったシャンパンで鮮やかなピンク色を探すとなると少し一般的ではない銘柄を探すことになる。今回のジン
「なかなかに素敵な色になるのね…。頂くわ!」
「頂こう!」
シャーロットとデボラが同時にグラスを口へと運ぶ。深夜でテンションが上がっているのか、いつも以上にそんな二人の姿をどんな光景よりも美しいと感じるミナトであった。
「美味しいわ…。常温のストレートで飲むジンより飲みやすくいし香りも少し変わるのね…。オレンジ…?香辛料かしら…?味わいがジンのストレートより複雑になって好きよ!」
「ふむ…。常温ではあるがかなりスムーズに頂けるカクテルなのだな。冷たい方が飲みやすいと感じていたがこれはこれで飲みやすく…、そして美味い!」
ジン
「ジンやグラスを冷やすともっと飲みやすくなってより現代的っていうのかな…、そんな感じの味になる。それとは別に同じ材料でミキシンググラスを冷たくしながらステアで作るとピンク・ジンってカクテルになる。ただこのカクテルってバリエーションが多いからシェイクもあったような気がするんだよね…」
笑顔で説明するミナト。やはりお客や大切な二人相手にカクテルを作っているときが楽しいと感じてしまっていた。
「作り方を変えるだけで名前が変わるのって面白いわよね!じゃあ、私がボトルとグラスを冷やすから冷やしたバージョンのジン
「せっかくシャーロット様がボトルを冷やしてくれるのだ。氷もお願いできるかな?マスター!我はステアのピンク・ジンというものを頂くぞ!」
かつての世界では絶対に出会うことなどできなかった最高に魅力的な二人のパートナーへミナトは嬉々としてカクテルを作り始める。結局、眠れたのは日の出から少し経った頃だったのは失敗だったかもしれないと思うミナトであった。
ちなみに就寝の際、二人は隣の部屋へときっちり移動してもらった…。
酔っぱらいながら、
「別に同じベッドでもいいじゃない!」
「別に同じベッドでもいいではないか!」
と言う二人を必死に宥めすかして誘導したのはまた別の話である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます