第115話 ひと時の帰還
オレンジ・ビターズに出会えたことが嬉しかったミナト。自家製で作りたくても度数の高いスピリッツが手に入らないこともあって探していたのだ。この依頼が終わったらクレーム・ド・カシスと一緒に是非とも仕入れさせてほしいと考えている。マティーニまであと少しであった。
『…とはいっても今は護衛をしないとね…』
ミナトはモーリアンに向き直る。
「先ほどまでと同様に私は隊列から離れて行動します。先回りして刺客を捕らえた方法は冒険者の秘密ということでお願いします」
そう言って頭を下げる。
「うむ。儂もそれを詮索する気はない。引き続きよろしく頼む」
モーリアンに許可を取ってミナトは街道を外れ森の中へと姿を消す。馬車の屋根部分に【転移魔法】である
「シャーロット…、デボラ…」
二人が無事であることを疑う余地などどこにもないが少しだけ心配したミナトは事前に設置しておいた魔物たちの群れが発生した広場へと転移することにした。
そうしてミナトが転移して戻ってくる少し前…。
「魔物達がこちらに向かってこない…」
「シャーロット様が召喚の魔法陣を破壊したのだな…、っと!!こ、これは!?」
思わずデボラは身震いした。恐怖を感じたと言っていい。周囲の騎士は未だ燃え盛る
「シャーロット様…、二千年ぶりだろうか…」
そう呟くデボラ。かつてのその姿を思い出しふるりと体を震わせる。シャーロットの帰還を待っていろいろと伺いたいが今は周囲の魔物のことである。
「おお…」
「た、助かったのか…」
「さっきの魔物を飛ばした突風や炎の壁はあの冒険者が…?」
カーラ=ベオーザを含めた騎士達はまだ自分の目の前の光景が信じられないのか呆然としたまま呟くのみだが、
「どうやら命拾いをしたようですわ…。それにしてもあれ程の魔法とは…」
メイスをしまうA級冒険者のティーニュは状況を理解しているようであった。
そんな周囲を見渡すデボラ。怪我人は多いが死者はいない。ミナトとの約束を果たせたことを嬉しく感じていた。そのとき、
『ただいま~!もう大丈夫よ!』
シャーロットが念話で話しかけるとデボラの後方で隠蔽を解く。
『シャーロット様?先ほどのあれは何なのだ?一体どんな魔法を?』
無言で念話を使っているが心は穏やかとは言えない。
『魔法陣は
すました顔で言ってくるシャーロット。その魔法を聞いてデボラが驚きの表情になる。
『そ、それは魔王配下の邪竜を…、あ、あの群れを一瞬で黒焼きにした魔法ではないか?オーバーキルというやつでは…?』
ジト目でそう言われるがシャーロットは受け流す。
『あの黒焼きは一部では結構人気が出たのよ?精がつくって…』
『黒焼きの話をしているのではないのだが…。いやしかし問題はその後だ!とんでもない魔法を発動したな?』
デボラが確信に触れようとする。
『少し
『ほう…』
『そして連中は間違いなく東方魔聖教会連合の残党だったわ…。そして
シャーロットの言葉にデボラは何かを納得したように頷く。
『
『さっすがデボラ!分かってるぅ!あの連中は
『…ということは…、使った魔法は…、音も大気の揺らぎも感じず…、シャーロット様を怒らせた場合…、ま、まさか…』
念話でぶつぶつと独り言のように呟いていたデボラが驚愕の表情を浮かべる。傍から見ると無言の絶世の美女が声も上げずに驚愕しているのでちょっと不気味である。騎士達が仲間の介抱に気を取られてこちらを見ていないことが救いであった。
そんなデボラにシャーロットはとても可愛らしく…、んべっと舌を出すと、
『
デボラはきっちり十秒固まった。
『てへ…、じゃすまされない魔法ではないか!!』
『大丈夫!ちゃんと制御したから!』
『あれは制御云々の話でどうにかなる魔法では…』
傍目には二人の美女が清楚な佇まいで見つめ合っているという状態…、の筈だが念話ではもう少しで世界が大変なことになったかもしれないということについての熱いやり取りが交わされていた。そんな時、
『ただいま!シャーロット!デボラ!みんな無事みたいでよかったよ!モーリアンさん達も大丈夫!』
ミナトが姿を現した。
「お帰りなさい、ミナト!お疲れ様!」
「お帰りなさい、マスター!お疲れ様と言いたいところだが聞いてくれシャーロット様が…」
何やら話し合いをしていたらしいがいつも通り元気で美しい二人の元に戻ってくることができたことが何よりも嬉しいと心から思うミナトであった。
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