第114話 思わぬ出会い(オレンジ・ビターズ)

 騎士に協力してもらい刺客達を縛り上げ終わったミナト。究極の隠蔽魔法である絶対霊体化インビジブルレイスで消した悪夢の監獄ナイトメアジェイルの鎖が首へとまかれている刺客達は完全に無力化されている。


 残った騎士が周囲を確認し他に脅威がないことを確認した。すると馬車の扉が開き公爵家先代当主のモーリアンがその姿を見せる。このような状況ではいくら周囲に脅威がなくなったとしても護衛対象は外に出てこないと思っていたミナトは少し慌ててしまった。


「モ、モーリアン様?馬車を降りるのは…」


「構わぬよ、ミナト殿。周囲に脅威がないと我が家の騎士が確認したのだ。それを信じるのが私の責務なのでな。それにしても刺客は十人…、多勢に無勢であったか…。我らは領境の関所を目指し移動することだけに集中していた。もしそこに奇襲を受けたのであれば…、この人数の騎士では危なかったであろう。ミリムだけでなく儂やアラン殿までそなたに助けられたようじゃな…。本当に助かった。そなたの働きに感謝する」


 そう言ってモーリアンは右手を胸に当てる。それはミナトがラノベで読んだ知識では騎士による感謝の仕草に似ていた。


「私は冒険者として依頼された仕事をこなしたまでです。領境まであと少しと御者から伺いました。とりあえずそこを目指しましょう」


 ミナトの言葉に頷いたモーリアンだがその表情は晴れない。


「ここでの待ち伏せとは…。ミナト殿は先ほどの場所で受けた魔物からの襲撃も関係していると思われるか?」


「ええ…、魔物は群れで襲ってきましたが街道側には現れませんでした。だから馬車で脱出することが出来たのですが…」


「それこそが敵の思惑だったと…?」


「はい…。襲撃場所が公爵領に近い地点であったため脱出した馬車は退避先を公爵領の関所にしました。それも相手の狙いではとないかと…」


「手の上で踊らされたか…、我らにミナト殿のような護衛がいたことが相手方の誤算だったということかの。しかしミナト殿…、残してきた者たちは…、そなたの仲間も今頃は…」


 どうやら表情が晴れないのは残してきた者やミナトの仲間のことをおもんぱかってのことらしい。貴族らしくない人なのかもと思いながらミナトは急いで説明する。


「いえいえ…、あの~…、えっと、た、たぶん大丈夫で…、みんな無事だと思いますよ?私の仲間たちは強いので全員が関所まで辿り着けると思います」


 なんでもないといった風で説明するミナトにモーリアンがあっけに取られた表情をする。


「そうかミナト殿は仲間を信じておるのだな…」


 そう言って俯いていしまった。どうしようかとミナトが思っていると騎士が出立の準備ができたと報告してくる。それと同時にモーリアンとミナトにかなり小さな瓶を差し出してきた。受け取ってみると中に液体が入っている。それを確認してミナトが騎士へと尋ねた。


「これは?」


「当ウッドヴィル家に伝わりますと呼ばれるものです。各貴族家にそれぞれの調合が伝わっておりまして、士気の向上や恐慌状態からの回復に効果があるとされています」


 どうやら気付け薬のたぐいらしい。


「魔物の襲撃に刺客による待ち伏せ…。夜明けにはまだ時がある。精神的な疲労を抱えている者をおるじゃろう。今いちど集中力を高める必要があるこのような時に飲むものなのじゃ」


 そう言ってモーリアンは小瓶の中の液体数滴を口の中へと振り込んだ。


「我が家のはオレンジと香辛料が効いておって他家のものよりは飲みやすい…、ミナト殿も数滴飲んでから護衛を続けて頂くのがよいじゃろうて」


 そう言われてミナトも小瓶の液体をモーリアンに倣って数滴を口の中に振り入れる…、と同時に目を見開いた。


「これって…、高い度数にオレンジと香辛料…。間違いない…、これはオレンジ・ビターズじゃないか…」


 思わず呟きが漏れる。まさか探していたリキュールがこんなところで見つかるとは…。ミナトの頭の中には某有名RPGで貴重なアイテムを発見した時に流れるサウンドが大音量で響いていた。

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