第111話 美形エルフの凄い笑み

 脅威となるはずのオーガが他のオーガを巻き込む形で投げ飛ばされ、複数のワイバーンが風魔法で落とされた。そんな信じられないような光景に命を懸けた戦闘の覚悟を決めていた騎士達が驚愕で固まる。


「呆けている暇はないわ!!魔物たちが来るわよ!!」


 魔物との戦場になった広場にシャーロットの声が響き渡る。魔力で声量を上げているようだ。その言葉にハッとして我に返る騎士達。


「参りますわ!!」


 そんな騎士達を差し置いて一人が魔物の群れへと走り出す。


「ティ、ティーニュ殿!?」


 騎士であるカーラ=ベオーザが声を上げるがティーニュは止まるそぶりも見せず、新たに群れの先頭に立ったオークの眼前に立つ。そしてメイスを構えた。大きな構えと共に目を閉じて集中する。その体から魔力の揺らぎが感じられた。


『魔法のレベルはさておくとしても戦い方は自身の能力の上限をよく理解した見事なものだ』


 複数いたオーガの全てにミナトがレーザー光線と呼んだ細い炎槍フレイムスピアで止めを刺したデボラがティーニュを観察して念話で呟く。


『そうね…。人族の中ではかなり優秀と言えるわ…』


 シャーロットも空中を舞っていた全てのワイバーンの翼か首を落としきったのを確認してそう返す。


 そうしてオークとティーニュの距離が近づいた。オークが持っていた棍棒を振り上げティーニュを叩き潰そうとした瞬間、ティーニュの目が開かれる。その瞳に青い魔力が宿っていた。


水圧弾ハイドリックバレット!」


 その詠唱と共に振るわれたメイスがオークの棍棒と激突するとオークが棍棒ごと弾き飛ばされた。ティーニュは既に次の魔物を標的として移動を開始している。


水圧弾ハイドリックバレット…、連射!」


 次々とメイスが振るわれ魔物たちが弾き飛ばされる。弾き飛ばされた魔物は既に絶命しているが、移動できないような大ダメージを受けている。さらに弾け飛んだ時に他の魔物を巻き込んでダメージを与えているようだ。


『上手いわね…。水飛沫スプラッシュよりも弾き飛ばすことに特化した魔法で他の魔物を巻き込み、騎士たちの負担を軽減する…。使用する魔法も連射を考慮した消費魔力量の少ないものだし…』

『さすがA級冒険者といったところか…?』


 オーガやワイバーンといった脅威となる魔物が戦闘不能になり、群れの先頭をティーニュが叩いたことで騎士達も勝機を見出したらしい。


「ティーニュ殿が道を開いてくれた!!総員、戦闘開始!!ティーニュ殿だけに戦わせるような不名誉なことをするな!」


「「「おう!!」」」


 カーラ=ベオーザの声に連動して騎士達も魔物の群れとぶつかった。その様子を後方に退避して眺めるシャーロットとデボラ。


「ちょっと数が多いけど残りはあの連中でなんとかなるんじゃない?」


「うむ。我らのみで殲滅した場合、活躍の場を奪ったなどと因縁をつけられかねんからな…。マスターの命はこれで果たしたと言えるだろう…。それにしてもシャーロット様、この魔物の群れはどこから現れたのだ?我には突然発生したように感じたのだが…?」


『そのことなんだけど、これは召喚魔法ね。ほら…、あの魔物たちの目…、かなりおかしい状態じゃない?あれは召喚された挙句に無理やり精神操作とか洗脳とかを受けたときになるものだと思う…』


 デボラの問いに念話に切り替えて答えるシャーロット。


『召喚魔法?これだけの魔物を召喚して洗脳…?これは人族や亜人の争いであろう?そんなことが可能なのか?』


 デボラが少し驚いてシャーロットに問い返す。


『魔道具ね…、それも古代魔道具と呼ばれる類のものが使われている…』


『それは…、もしや…?』


『ええ。東方魔聖教会連合…、その残党であれば入手可能かもしれないわね…』


 そう言ってシャーロットが俯きその表情を歪める。そして意を決したかのように顔を上げ、


『デボラ!私はこれから…』


 そこまで言ったとき、


「副団長!戦線を維持できません!!援軍はまだですか!!」

「こっちも時間の問題だ!!」

「ハア、ハア…、こちらはわたくしに任せて!!あなた方はあちらの援護を!!水飛沫スプラッシュ水圧弾ハイドリックバレット水飛沫スプラッシュ!」

「ぐ、ぐう…、こ、このままでは…」

「誰か!ポーションを!!もうポーションはないのか!?」


 そんな声が聞こえてきた。声に気付いたシャーロットとデボラが視線を送るとティーニュや騎士達が魔物相手に劣勢を強いられている光景が飛び込んできた。


「まったく…。騎士としてF級冒険者をバカにするならもう少し強さを見せてほしいものなのに…。デボラ!」


「何かなシャーロット様?」


「私が風魔法で騎士と魔物の間に距離を取るわ!そこに炎の壁でも作って魔物を遮断して!!」


「それは問題ないが…、それでシャーロット様は?先ほど何を言うつもりだったのだ?」


 デボラに問われたシャーロットは凄絶な笑みを浮かべた。その表情にデボラは二千年ぶりに戦慄する。デボラの知っているそれはシャーロットが絶対に許さない相手にのみ向ける笑みだ。


「私はこの魔物たちを召喚した魔道具を破壊してくるわ!近くにいる奴らもまとめてね…。この連中騎士と冒険者をお願いね!!」


「承った!!」


 デボラの答えを聞いた瞬間、シャーロットの体内から膨大な魔力が吹きだした。シャーロットの魔法レベルは闇魔法を除いて全て八。それは人族では絶対に到達できないレベル。そして厄災のごとき現象を顕現させることが可能になるレベルである。


 そのあまりにも膨大な魔力の奔流を感じ、ティーニュが驚いて動きを止める。魔力を感じることが出来る魔物たちも戦慄して動きを止めた。


「どきなさい…。強く吹き抜ける風ギガ・ラファーガ!!」


 その言葉と共に突風が生み出されたのだが、それを感じることが出来たのはその場にいた魔物たちのみ。風魔法レベル八は伊達ではない。その驚異的な魔力の操作によって魔物たちだけが突風をまともに受けて吹き飛ばされる。そして見事なまでに乱戦に陥っていた騎士達と魔物の群れとの間に一定の空間が生み出された。


「出でよ!!炎の壁ファイア・ウォール!!」


 間髪入れずに唱えられたデボラの詠唱により、騎士達と魔物との間に十メートル以上の炎の壁が発現した。煉獄の炎でできていると表現できるような分厚い灼熱の壁は何人をも近づけることはない。


 カーラ=ベオーザを含む騎士達もA級冒険者のティーニュもあまりにも強大な風魔法の威力と生み出された炎の壁の光景に再び驚愕して立ち尽くしている。


『じゃ、行ってくるわ!』


 自身に隠蔽の魔法をかけて駆け出すシャーロット。


『ご武運を!!』


 その可憐な姿を目礼で見送るデボラであった。

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