第110話 戦闘開始
「バカな!オーガにワイバーンだと!!」
騎士であるカーラ=ベオーザが驚愕する。現れた魔物はホーンラビット、ゴブリン、コボルトといったそれほど強くない魔物の姿もあるが、ホブゴブリン、オーク、トレントといった騎士と一対一ではやや手に余る相手となる魔物も多くいる。そしてカーラ=ベオーザは視線の先に複数のオーガと、空を飛んでこちらに向かう複数のワイバーンがいた。どの個体もかなり大きい。
オーガは鬼のような二本の角を生やした巨大な魔物であり、三メートルを超える巨躯とそれに違わない膂力を持ち、その巨体には見合わない敏捷性を備えている。冒険者としてオーガを討伐する場合、通常B級以上の冒険者パーティ複数で討伐に当たることが推奨されている。間違っても一対一で戦っていい魔物ではない。
ワイバーンは遭遇する可能性はかなり低いが、かなり厄介な魔物とされている。幼体であればそれほど脅威にならないが、成体のそれも巨大な個体は魔法使い以外では落とすことが不可能に近いのである。冒険者ギルドで討伐依頼が出される場合は一体につきレベル二以上の火魔法か風魔法の使い手を十人以上集めることが基本とされていた。
魔物たちとの距離はおよそ二百メートル。移動速度の速い魔物はすぐにでもここに到達する距離だ。しかし街道側には魔物は出ていない。状況を確認したカーラ=ベオーザが声を張り上げる。
「全員!武器を取れ!お前たちはアラン様、モーリアン様、ミリム様を馬車へ!!一刻も早くお三方を連れてこの場を離脱しろ!!もう少しでウッドヴィル領だ!!関所まで行けば援軍が得られる!!」
「了解しました!!」
カーラ=ベオーザからアラン、モーリアン、ミリムを連れての離脱を指示された騎士が御者を連れて馬車へと駆ける。
「私を含めた残った者とティーニュ殿で魔物をこの場に抑え込む!!」
「「「「おう!!」」」」
「その依頼、承りましたわ!!」
残された騎士達とティーニュが魔物たちへと向き直り武器を構えた。
『あーあ…、またおれ達蚊帳の外だよ…』
『そんなに信用ないかしら…』
『まあ、仕方がないと言えばそうなのだがな…』
ミナトの念話に少し呆れた調子でシャーロットとデボラが念話を返してくる。
『おれ達の目的はモーリアンさんミリムさんを護ることだから…、馬車について行った方がいいと…、…これって…?』
ミナトは一定の距離を取って後方にいた魔力持ちの一団がウッドヴィル領側へと移動していることを感じ取った。
『敵の策略よ。魔物を陽動にして、群れのいない街道側へ護衛対象を馬車で逃がすことを狙ったみたいね。ウッドヴィル領に近いから援軍を頼むため馬車はウッドヴィル領を目指すはず。単純な策だけどこれだけの魔物を使えるなら効果的ね…。ミナト!あなたの闇魔法ならあの馬車を護れるわ。私たちの力は誤魔化しがきくけど、あなたの闇魔法は規格外だから隠しておいた方がいいしね!』
その言葉にミナトは即座に【闇魔法】
『シャーロットの意見に賛成だ!!おれはモーリアンさん達を護りに行く!ここの魔物は二人に任せていいかな?騎士達を護ってやってほしい!』
馬車を追って移動を始めるミナト。
『任せなさい!気に入らない騎士達だけどミナトが言うなら誰一人死なせやしないわ!!』
『うむ!我がマスターからの命を違えるわけがなかろう!任せておけ!!』
そうしてミナトが馬車を追って駆け出した。既にその姿は
【闇魔法】
全ての音や生命反応を感知不能にする透明化に加えて
ミナトを送り出したシャーロットとデボラは魔物たちに対峙しようとしている騎士達の最前線に参加した。
「貴様ら!?何のつもりだ!!オーガやワイバーンを相手にしてF級冒険者に何ができる!?控えろ!!」
騎士カーラ=ベオーザがそう怒鳴るがそんなことを気にする二人ではない。既に魔物の群れとの距離は二十メートルを切り、特にその敏捷性が特徴のオーガや空を飛んでいるワイバーンが先頭になっている。
「何ができるって言っているわよ?デボラ?どうする?」
「全部をシャーロット様にお願いしては騒ぎが大きくなりますからね…。あの
そこで二人は念話に切り替える。
『それくらいにしようかしら…、私のシナリオとしてはワイバーンを落として魔力切れってところかしら…』
『では我の筋書きは…、オーガを我が身体強化の全力で退けそして魔力切れ…、ということで…』
二人の視線が僅かに交差し頷き合った瞬間、先ずはデボラが駆け出した。その圧倒的な速さに騎士たちは追い縋ることもできない。
「先ずはお前だ!!」
凄まじい勢いでデボラが先頭のオーガの眼前に迫る。いきなり眼前にデボラが出現したことで驚きその動きを止めるオーガ。デボラは全く間を置かずにとび上がりその顎を膝で跳ね上げる。同時に頭を鷲掴みにしたデボラはオーガの巨躯を他のオーガ目掛けて投げ飛ばした。三体のオーガがそれに巻き込まれ後方に吹き飛ばされる。あまりの光景に騎士達は絶句する。
「ふふ…。次は私の番ね…」
ニコリと笑ったシャーロットの体から魔力が吹き上がる。
「風魔斬《ウィンドカッター》!」
その場所にシャーロットの声が響いた。次の瞬間、こちらへと向かって飛んでいたワイバーン五頭が次々と落下した。デボラの行為に絶句していた騎士達はさらなるあまりの光景にもう自分たちの目が信じられなかった。
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