第107話 ミルドガルム領へ

 ミルドガルム公爵ウッドヴィル家の領都であるアクアパレスは王都の東、移動に関してはミナト達にはお馴染みとなった大森林を掠めるように延びる街道を使うのが一般的とされている。ミナトはシャーロット、デボラと共に馬車の護衛についてその街道を東に移動している。夏真っ盛りのこの季節、既に太陽は頂点を越えているが夕方までにはまだ時があり夏の日差しが燦々と降り注いでいた。日差しは強いが時折吹き抜ける風は涼しさも運んでくれる。


「うーん…、気持ちがいいわね!こういう暑い日も悪くないわ!」


 のびーっと背筋を伸ばす動作をしながらシャーロットが言ってくる。本日のシャーロットはブーツ、レギンス、ショートパンツ、そして動きやすそうな上着の上からフード付きのローブを羽織っている。大森林でミナトと初めで出会った時とほぼ同じ旅の魔法使いの一般的な服装というやつだ。平凡な服装に見えるのだがやはり美しい、そして可愛いと思ってしまうミナト。うっかりすると目が行ってしまう輝くスラリとした生足は見なかったことにする。


「うむ。我もこのような気候は心地がよい」


 こちらも満足そうに圧倒的な美形を笑顔にして楽しそうにしているデボラ。こちらはいつものごとく民族衣装風の装いなのだが何故かスカートには結構大胆にスリットが入っている。本人曰く『夏の仕様だ』とのこと。スレンダーなシャーロットとは異なる妖艶ともいえるシルエットをしているデボラの生足がスリットからちらちらと見える様は目に悪いとミナトは思っている。


 集合場所に定められたウッドヴィル公爵の屋敷では男性騎士の視線を釘づけにしていたが、護衛の移動では何かを危惧したのか、カーラ=ベオーザから最後尾に位置するように命令され彼らを密かに落胆させることになった。ちなみにティーニュは二台の馬車の中間で移動している。


 そういう訳で…、どういう訳かは分からないが目に栄養という名の血液が集まる光景はミナト一人のものとなりとても落ち着かないミナトであった。


 ミナトたちが護衛しているのは二台の馬車。一台目にはヴィシスト侯爵家の次男で今回の婚姻と共に辺境伯へと任ぜられるアラン=ヴィシストが乗っており、二台目にはウッドヴィル公爵家の先代当主であるモーリアン=ウッドヴィルと当代の長女であるミリム=ウッドヴィルが乗っている。三台目の馬車には食料や衣類、馬用の飼葉などが乗せられている。護衛対象以外は騎士達を含め殆どが徒歩であり、護衛の責任者であるカーラ=ベオーザ含め数人の騎士が馬に騎乗していた。


 実際に会って挨拶を交わしたアラン=ヴィシストは温厚な人物でありモーリアンやミリムと話をしている様子からミナトは一応信頼のおける人物であると判断した。ただ優秀な文官ということだからおそらく政治的な策謀にも長けているのだろうとミナトは考えている。


 出発前、しっかりと戸締りをした店にはシャーロットが結界魔法をかけた。


「エンシェントトレント製のこの店が私の結界付きできちんと戸締りをしたなら、何らかの影響を与えることが出来る存在などこの世界に数えるほどしかいないし、侵入はまず不可能ね!」


 そうシャーロットは胸を張った。着替えといった旅の荷物はシャーロットのマジックバッグに収納することが出来たので身軽なものである。


 そうして全員が正午に集合し簡単な挨拶を済ませて出発となった。ミナトがほんのちょっぴり予想していた騎士達とのなんやらといったテンプレは発生していない。そうして現在、このようのシャーロットとデボラはまったりしている状態であった。


「それにしても…、楽しみだわ…、本当に楽しみね…、フフ…」

「ああ。我も楽しみだ…、ウフフフフ…」


 ミナトを間に挟んでとてもいい笑顔で二人が笑っている。その迫力のある笑顔の原因は数日前に遡る…。

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