第106話 案じられた一計
ライナルトの説明は続く…、
「そこで陛下と私は一計を案じた。彼が私に連なる文官であることを口実に我が領都アクアパレスで婚姻の儀を行うことにしたのだ」
それを聞いたティーニュが再び僅かに顔を上げる。
「公爵様の目と腕が届く場所にて婚姻の儀を行うことで妨害する者…、直接的には婚姻とそれに伴う陞爵の妨害する者ですが、それを王家への反逆者という名目で特定しこの機会に一掃する…、ということでしょうか?」
「さすがティーニュ殿!話が早くて助かる」
「具体的な策を伺ってもよろしいでしょうか?」
ティーニュが話を促した。
「我々の一団は二手に分けてアクアパレスに入ることにした。一つは私と妻の一行、もう一つがティーニュ殿たちにも護衛を依頼するアラン殿、我が父モーリアンと娘のミリムの一行だ。家督を継ぐ長男は今回に関しては王城から出ない。そして私達には私が統括している麗水騎士団からカーラ=ベオーザを除く主要な騎士が護衛につき、アラン殿の一行にはカーラ=ベオーザを含む最も信頼できる我が家の騎士、そしてティーニュ殿達が護衛となる」
ライナルトの説明にティーニュが反応する。ミナトも心の中で呟く。
「まさかどちらを襲撃するかで相手がどの程度情報を得ているかを判断されるおつもりですか?」
『どちらを襲うかで相手の目と腕がどこまで伸びているかが分かる…、って感じかな?』
「その通りだ。ちなみに私達夫妻を襲う方が小物でティーニュ殿達が護衛する一行を狙う者が本命となる反逆者だ。今回の政策は私主導で進められたかのように見せているが、ここだけの話、具体策はミリムが発案し、他の貴族家と陛下を説得したのは父のモーリアンなのだ。そして長男が私の後を継ぐことは既に周知の事実。私を襲っても長男が後を継ぎ、この政策を進めるのは明らかだ。少しでも頭が回れば私達を襲うメリットなどない。だが父モーリアンに何かあった場合、政策に賛成した貴族たちは一枚板ではいられまい…。アラン殿に何かあれば婚礼への影響は必至だ…。ミリムのことをその者達がどう考えているかは分からないが娘による献策は貴族家の間では知る人ぞ知るといった状態だ。これを機に我が娘を亡き者にして公爵家の勢いを削ぐと考える者もいるかもしれない。そやつらも今回の標的となる…」
ライナルトの説明はミナトの予想とそれほど外れてはいなかった。
「私からも質問をしても?」
ミナトが手を上げる。どうしても聞きたくなった。
「ミナトといったか…?よいぞ、答えられることには答えようではないか!」
ミナトは立ち上がって問うことにする。
「話は大体わかりました。だがなぜこの国の二大公爵家の一つの当主であるあなたやその家族を囮に…、危険に晒す必要があるのでしょうか?あなた達のような高位な貴族であれば影武者を使うことも可能でしょう?」
ミナトの問いにライナルトは穏やかな笑顔を浮かべた。
「確かに影武者を仕立てることもできかもしれぬ。だがな…、これはこの国…、我がルガリア王国の闇に巣食う悪の一つを滅ぼす絶好の機会なのだ。もし影武者を仕立ててその情報が漏れた場合、襲撃はないかもしれないが、他の…、もっと卑劣な妨害が発生する可能性もある。奴らに目立つ餌をぶら下げることができるこの機会を逃したくはない。もし何事もなく婚礼が執り行われ政策が実行に移された場合、闇に巣食った悪は姿かたちを変えてこの国に潜み続けることになる。私はそれも阻止したいのだよ。そのためにはそなたの言う我等のような高位貴族が命を懸ける場面だと私は判断したのだ。ちょうど跡取りもいることだしな」
穏やかな笑みを保っている筈なのだがミナトは一瞬ライナルトがニヤリと黒い笑みを浮かべたように感じた。その姿は清濁併せ呑む貴族の姿そのものである。
「凄い覚悟ですね…。よく分かりました…。私からは以上です…」
『これが
『そうね…。この当主はなかなかの矜持を持っているみたいよ』
『ふむ…。モーリアンといった先代もなかなかだがその息子であるこの者も貴族としては優秀なのかもしれぬ…』
「さて…。そこで護衛に関してだが、我が家の騎士を相手とした模擬戦の結果、ティーニュ殿とミナトのパーティが選ばれたわけだ。正直なところ私はこの結果に驚いているが娘のミリムはこれを予想していた。そこで護衛の対象についてもミリムの案を採用することにする」
そんなことをライナルトは言ってくる。
『ミリムさんは一介の研究者になりたいって言ってたけど、公爵家からはかなり信頼されてない?』
『どうやら公爵家の知恵者として通っているって感じね…』
『魔物に好かれるだけではないということだな…』
念話でそんな話を続けるミナト達。
「ということで基本的に護衛対象の傍らには騎士が常に控えるが、アラン殿にはティーニュ殿。父モーリアンと娘のミリムにはミナトのパーティが護衛をしてもらいたい。条件は…、出発は一週間後の正午。我が屋敷に集合とさせてもらおう。護衛は王都の我が屋敷からアクアパレスの屋敷まで、期間は片道およそ二週間といったところか。アクアパレスの屋敷で解散とし、報酬はディルス白金貨二十枚。異存がなければ依頼書にサインをもらえないだろうか?もちろん追加の質問があれば答えるがね?」
依頼内容はミナトの想定通りといってよい。シャーロットとデボラに念話で確認したミナトは依頼書にサインすることを決めたのだった。
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