第105話 依頼の詳細

 ミナトたちは冒険者ギルドの会議室でミルドガルム公爵ウッドヴィル家の当主であるライナルト=ウッドヴィルから依頼の詳細について聞くことになった。


「さて…、どこから話をしようか…。ティーニュ殿とミナト等のパーティには書状を出していたな…。それであれば今回の依頼が護衛任務で我がウッドヴィル家の領都アクアパレスに行くという内容までは事前に知っていると思う」


 公爵の言葉にティーニュが頷いてみせる。


「最初に誰を護衛するのかを話そうか…。護衛の対象は三人…。イストーリア侯爵ヴィシスト家の次男であるアラン=ヴィシスト殿、そして今日この場にいる我が父モーリアンと娘のミリムの三人だ」


 アラン=ヴィシストの名前にミナトの目がほんの少し細められる。その名前に心当たりがあったからだ。


『ミナト!ヴィシスト侯爵家のアラン=ヴィシストって…』

『ああ…。商業ギルドで調べてきた近々他の侯爵家から妻を娶って辺境伯に任ぜられる侯爵家の次男って人の名前だ…』

『マスターの探索が当たったのだな…』


 シャーロット達と念話で会話を交わすミナト。ライナルトの話は続く、


「知っている者もいるかもしれないがアラン=ヴィシスト殿は優秀な文官でありこのたびマウントニール侯爵サンケインズ家の次女であるゾーラ=サンケインズ殿を妻として娶り辺境伯に任ぜられることが決まっている」


 ライナルトの説明はミナトが商業ギルドで得てきた情報と同じであった。


「その婚姻の儀を我が領都アクアパレスで行うことが決定した。イストーリア侯爵領は王都からみて北方にあるのだがアラン殿は王城住まいで政務に従事していた関係で王都からアクアパレスまで移動することになる。そしてその移動には我が父モーリアンと娘のミリムが同行する。その道中の護衛を依頼するというのが今回の依頼内容だ」


「質問がございますわ!」


 ライナルトの説明にフードを目深に被ったまま女性冒険者のティーニュが手を挙げそう発言する。


「ティーニュ殿、何かな?」


「何故、そのアラン様だけを護衛するのですか?私が把握している限りゾーラ=サンケインズ様も王城で政務に従事されていたかと記憶しています。通常であれば婚礼の儀のお披露目として王都からアクアパレスまで妻となるゾーラ様と道中を共にされると思うのですが…?」


 確かにその通りだとミナトも考える。この世界の貴族の風習はよく知らないがラノベなどでも盛大な婚姻ではお披露目と称してそのようなことをやっていたとミナトは記憶していた。


「ティーニュ殿のご指摘はもっともなのだが…、その回答となる事情の説明が辞退した場合に契約魔法を行使させてもうことにつながるのだ」


 それを聞いたティーニュが僅かに顔を上げる。ミナトはほんの一瞬、その瞳が見えたような気がした。


「さて事情を説明させてもらおう。結論から言うとゾーラ=サンケインズ殿は既に我が領都のアクアパレスに入っており、アクアパレスの我が屋敷にいる」


「?」


 ティーニュが首を傾げている。ミナトも心では同じ状態だ。


「これは婚姻の話が世間に広まるよりもっと以前の段階…、王城内でアラン殿の婚姻とそれに時を合わせて辺境伯に任ずるという話が陛下より伝えられるよりも前にゾーラ殿とサンケインズ家には内々に話を通してアクアパレスに移動してもらったのだ。さすがにアラン殿は陛下から直接今回の婚姻と辺境伯への陞爵の決定を承らなくてはいけないからな…。今回の婚姻は、という事実が重要となる。だからお披露目といった煌びやかな催しはしないし、双方の親である侯爵夫妻も出席しない。これは両家とも既に了承済みだ。貴族であれば誰もが知っている婚姻なのだが世間的にはどちらかというと秘密裏のような形で行われる」


「今回の婚姻と陞爵には王国…、陛下としての思惑がある…、そしてそれを快く思わない貴族がいるということでしょうか?」


 ティーニュが呟くような声でライナルトに問いかける。


「鋭いな、ティーニュ殿…、その通りなのだ。この婚姻には国としての思惑が大きく絡んでいる。この婚姻の主な目的は南の国境にあるフリージア地方を新たな辺境伯の領地として開発するとともに駐屯している各貴族家の騎士を減らすことで、王国が大きく負担しているフリージア地方の防衛費を減らすことにあるのだ。もちろんアラン殿が辺境伯に相応しい人物であることと、アラン殿とゾーラ殿二人が将来を誓い合っている仲であることが前提となったものなのだが…」


「フリージア地方に派遣されている騎士の予算はルガリア王国が出しているのですか?」


「大部分がそうなのだ…。」


 ティーニュの問いにライナルトが頷く。とりあえずラノベの貴族にありがちな無理やりな婚礼ではないらしい。


「フリージア地方に騎士を派遣して防衛する構想は元々スタンレー公爵タルボット家の肝煎りで実施された政策だ。しかしこの政策が決定されてから既に十五年、その間、大きな戦乱などは起こらなかった。そうして年月が流れるうちに証拠はないが防衛費の流用が行われているという話も聞こえてきてな…。陛下は政策の転換を決定された。正攻法では武官を輩出する貴族からの反発が予想されたことから相応しい人物が現れるのを待ち婚姻と陞爵を同時に行って表立っての反発を抑えたのだ。だがそれを面白く思わない者達がいる…」


『十五年前からの不良債権状態になった政策の転換か…。最初に主導…、か提言したのはモーリアンさんかもね…。そして当代のライナルトさんが引継いでミリムさんが相談に乗った…、だから狙われる…、ってとこかな…』

『その質問には答えてくれそうにないわよ?あのティーニュって人が聞くのならまた別なのでしょうけど…』

『この状況であればアランというものを女性冒険者に任せてモーリアンとミリムの二人を我々で護衛するということでいいのではないか?』

『きっとそんな感じだよ…。いやそうなってほしいな…』


 ライナルトがティーニュの問いに答える間にそんな念話を交わしているミナト達であった。

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