第103話 公爵家の当代

「ミナト!お疲れ様!」

「マスター!見事な勝利だったぞ!」


 シャーロットとデボラがとびきりの笑顔と共にそう言って出迎えてくれる。このレベルの美人の輝く笑顔が自分へとむけられることを素直に嬉しいと感じるミナト。


「なんとか様になったかと思うのだけど…、これって結果はどうなるのかな?」


 三人で騎士たちの方を見る。何やら騎士たちは話し合いを始めているらしい。練武場に残った冒険者達はどうすればよいのか分からずその場に留まっている状態である。それはティーニュと呼ばれた女性冒険者も同じであった。


 そんなよく分からない時間が少し経過した後、その停滞した空気が突然破られた。


「ご苦労!結果を聞かせてくれるかな?」


 全員の視線が集まる。護衛の騎士を伴って一人の男性が姿を現し声をかけたのだ。その装いはロングコート、上着にベストにジャボ、パンツといった貴族のものだがそのどれもが一目で高級品と分かる品々だ。


『この人って…、あ…、後ろにあの二人が控えているから…』

『そうね!きっとあれが当代のウッドヴィル公爵かしら?』

『ふむ…。ようやく本人を見ることが出来たな!』


 そしてミナトが気付く。


『そういえば名前って聞いていなかったような…?』


 その男性の背後には先日出会ったミリム=ウッドヴィルとモーリアン=ウッドヴィルの二人が控えていた。その二人を傍らに置いてこの場に登場できる者は一人だけ…。


「ライナルト様!」


 副騎士団長のカーラ=ベオーザがその声に反応し、右手を心臓の位置へと当て騎士の礼をする。やはりあの男性がミルドガルム公爵ウッドヴィル家の当代、その名はライナルト=ウッドヴィルというらしい。


「そろそろ結果が出たころだと思ってな…。カーラよ!結果を教えてくれないか?」


 騎士達の元へと歩み寄ったライナルト=ウッドヴィルがそう声をかける。


「は…。そ、それが…」


 カーラの歯切れが悪い。


『おれが騎士に勝つことが想定外だったのかな…。ということはこの模擬戦はティーニュって冒険者一人を合法的に選抜するための出来レースだったって感じ?』

『でもミリムってにはそんな意図はなかったと思うわ。あのが私たちを推薦したのならウッドヴィル家の中で意見が割れたのかもしれないわね…』

『うむ。ティーニュというあの冒険者が超一流ということで公爵家に知られているなら、F級の我々がその者に肩を並べるのはおかしいと思う輩がいたのかもしれぬな…』


 念話でそんなことを話してみる。公爵家には当然の如く戦力として騎士が仕えている。護衛のためとはいえ冒険者の力を借りることに嫌悪感を持つものがいるのかもしれなかった。


『でも開けた場所での対人戦なら騎士が有利だけど、森の中とか夜間での夜盗や魔物との戦闘とか、遠距離を移動するときの夜盗・魔物への対策とかは冒険者の方が優れているところもあるとは思うけどね…』

『それに選ばれたのがあのティーニュって冒険者なんでしょ?』

『そこに我らが割り込んだ形になるのかもしれぬな…』


 カーラが押し黙ってしまう。その様子にライナルトは首を傾げるが、そこへティーニュと呼ばれた女性冒険者が近づいてゆく。


「ウッドヴィル公爵。お久しぶりにございます。冒険者のティーニュでございます」


 ティーニュが公爵と騎士に優雅ではあるが遠慮することない態度で平然と声をかけた。


「おお!ティーニュ殿!久しいな!あの時分は世話になった。息災か?」


「はい。公爵様から過分な便宜をお図り頂きました。そのおかげで順調に活動させて頂いておりますわ」


「それは重畳。してティーニュ殿?何かあったのか?」


「模擬戦の結果ですが、わたくしとあそこに控えております冒険者が騎士から勝利を収めましたのでご報告しますわ」


 そう言ってティーニュはミナトたちを指す。それを聞いたライナルトの背後に控えているミリムが安心したかのように笑顔になるのが見えた。モーリアンも頷いている。そして副団長のカーラ=ベオーザの表情が苦虫を噛み潰したようなものに変化した。


「ほう…、ティーニュ殿以外にも模擬戦に勝利した冒険者がいたとは…。ミリム、あの者がお前の推したミナトという冒険者か?」


「ええ、父上。ミナト様、シャーロット様、デボラ様のパーティに相違ありませんわ!」


「どうやら儂等の心配は杞憂であったようだな」


 ライナルトの言葉にミリムが答え、モーリアンがそんなことを呟く。


「では、勝利した二人…、いやミナトという冒険者はパーティか…。二組は会議室まで来てほしい。依頼の詳細を伝えることにしよう」


 ライナルトの言葉で次の行先は会議室となるのであった。

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