第100話 模擬戦開始
ウッドヴィル公爵家の依頼を受けるために集まった冒険者達は冒険者ギルドの練武場へと移動する。練武場には公爵家に貸切られているらしく、普段なら見かける訓練中の新人冒険者の姿がない。その代わりウッドヴィル家付きの騎士であり、公爵家が統括している麗水騎士団で副団長も務めているというカーラ=ベオーザと同じタイプの騎士服を纏っている五人が待機していた。
『騎士服を着ているってことはウッドヴィル家の騎士ってことなのかな…。騎士との模擬戦かな…』
ミナトがそんなことを考えていると、
『ミナト!あそこ…』
『お、あの者は…』
シャーロットとデボラの念話が飛んでくる。二人の視線を追うと騎士と思われる五人の内の一人に辿り着く。
もう少しで口に出すところだった。一応、ミナトも冒険者崩れに囲まれたときに「魔王っていうな!」と口にしたことを反省しているのである。ミナトの念話にシャーロットとデボラが肯定するような意識が流れてくる。
『騎士だった…。斥候、斥候って言って申し訳ない…』
『でもお店を見張っている動きは完全に斥候だったわよ?』
『確かに斥候役の方が似合っているとは思うがな…』
そんなことを話していると、冒険者たちは練武場の中央へと促された。既に待機していた五人を背に従えカーラ=ベオーザが冒険者達に向き直る。
「さて、これから何をするのか既に理解している者たちも多いと思うが、これからここに控えているウッドヴィル家の精鋭と呼ばれている騎士達と模擬戦をしてもらう。今回の依頼には冒険者としての能力の中でも特に戦闘に関する能力が重要となるのだ。模擬戦をするのはソロの場合はその者自身が戦い、パーティの場合は腕に最も自信のある者で構わない。この模擬戦で我らの眼鏡にかなった冒険者にのみ依頼の詳細を説明する。この場で辞退する者、我らの眼鏡に叶わなかった者は練武場を出て行ってもらう。それで終わりだ。ただし依頼の詳細を聞いた後、辞退する場合は契約魔法で他言無用とさせてもらうことになる」
そう言って獰猛な笑みを見せるカーラ=ベオーザ。
「模擬戦のルールは各自得意な武器を木製のものにして使用、勝敗は武器を取り落とすといった敗北か、降参、または戦闘不能になるまでとする。今回はあちらに公爵家の回復魔法使いが来てくれている。死ぬ以外部位欠損までなら回復可能だ。ただし相手を殺した場合はルガリア王国法の殺人罪と同様に扱うのでそのつもりで!何か質問は?」
「冗談じゃない!騎士との戦闘不能まである模擬戦なんてやってられるか!」
「申し訳ないが辞退させてもらう」
「私もパスね~」
「高い依頼には訳があるってか?」
「依頼料に目が眩んだけどこれはだめだ…」
五人の冒険者が練武場から出て行った。どうやら戦闘職ではないソロの冒険者達らしい。ミナト達は特に気にしていなかったが今回の依頼料は高い。期間は書状に記されていなかったが報酬はソロであれば一人当たり、パーティであれば一パーティ当たりディルス白金貨二十枚。
ディルス鉄貨一枚:十円
ディルス銅貨一枚:百円
ディルス銀貨一枚:千円
ディルス金貨一枚:一万円
ディルス白金貨一枚:十万円
つまり二百万円ということだ。ソロの冒険者であれば冒険者御用達の安宿に一年は泊まり続けることが出来る金額である。それに釣られてきたのだが想定以上の戦闘能力を求められたので諦めたのだろう。
「他に辞退する者はいないようだな…。では模擬戦を始めよう。大した人数がいるわけでもないし私もじっくりと見物したいので一人ずつ模擬戦をするとしよう。ではそちらの側から始めようではないか!」
そう言ってカーラ=ベオーザはミナト達がいるのと反対側の冒険者パーティを指し示す。これだとミナト達の順番は最後になりそうだ。そう思っていると、そちら側と言われた場所にいた冒険者パーティから剣士らしい男が前へと歩み出た。
『パーティだと一人でいいって…、誰が出る?』
『ミナトでしょ?』
『マスターだろう?』
一応、ミナトは二人に聞いてみたのだがいとも簡単に返された。どうやら二人は騎士との模擬戦などしたくはないらしい。
『うう…、わかりました…。がんばるよ…』
『程々よ!殺しちゃだめだからね!魔王にも慈悲の心は必要よ!』
『マスター!手加減だぞ!うっかり消し炭はだめだからな?』
いろいろ言われているミナトが練武場の中央へその視線を送ると騎士の強烈な一撃が冒険者である剣士の肩口を捉えていた。あっという間に勝敗が決し、次の模擬戦が開始される。
『魔物相手とか、夜戦とか、奇襲なら何とかなるのだろうけど、こんな場所で一対一をするなら正しい剣術を身に着けている騎士の方が強いよね…』
『たぶんその考えで正しいわ』
『これでは冒険者は不利だろうに…』
そう話している間も次々と冒険者が倒される。騎士はかなり苛烈な攻撃を仕掛けてきていた。三人まで戦ったところ全て騎士が圧倒している。残すはソロが一人、パーティは六人組が一つとミナト達だけである。
『ミナト!次は面白いかもしれないわ!』
シャーロットがそんなことを言ってくる。騎士の前に立ったのはソロの女性冒険者。その金髪がちらりと見えるが、修道女のような衣服を纏い目深にフードを被っているのでその表情は確認できない。そして手には木製のメイスが握られている。
『武闘派の僧侶?』
『あの騎士がそう思っていたらどうなるかしらね…』
『ふふ…、これは面白いかもな…』
次の瞬間、ミナトは魔力の揺らぎを感じる。彼女は魔法を使うらしい。どのように戦うのか…。ミナトは彼女の戦いへと注目するのだった。
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