第99話 冒険者ギルドに集められた者達

 ミルドガルム公爵ウッドヴィル家からの書状を受け取った二日後、ミナトはシャーロットとデボラを連れて冒険者ギルドを訪れた。書状で指定された時刻は正午を少し回ったあたり…、帰りが遅くなることを考慮してBarは臨時休業である。元の世界でBarの臨時休業など滅多にしたことがないのだが、この世界ではバーテンダーと冒険者の兼業をしているので、普段は週一日の休日だが、原則は不定休ということにした。


 冒険者ギルドで当日の依頼が張り出されるのは午前のもっと早い時間帯である。冒険者はその時間帯に条件の良い依頼を求めてギルドへと殺到する。そのため今の時間帯は人影もまばらであった。


 ミナト達は受付で要件と書状を見せるとすぐに大会議室へと案内された。大会議室というだけあり殺風景な造りであるが天井が高く奥行きも広い。余裕のある間隔で置かれた椅子の好きなところに座るようにと促された。そこには既に十五人程の冒険者が座っている。会議室に入るとあっという間にミナト達に視線が集中した。ミナト達と言ったが正確にはシャーロットとデボラに視線が集中するが、ミナトは気にすることなく彼らを避けるように部屋の奥へ二人を連れて移動する。


「すげー…」

「いい女を連れてるな…」

「エルフにしてもあの美しさはヤバい…」

「あっちの異国風の女も…」


 小さく感嘆の声が上がる。


 シャーロットは冒険者として活動するときによく身に着ける踝まである丈の長い魔導士風のローブを纏いフードを被ってはいるがその美しさを隠しきれるものではない。ちなみに夏真っ盛りのこの時期のせいでローブの下はショートパンツとキャミソールに薄手のニットという破壊力が抜群な装いであることを知っているのは恐らくミナトだけである。デボラもいつもの民族衣装風の装いで露出は少ないのだが、抜群のスタイルを誇る彼女の曲線美と美しくもきつめの顔立ちと相まって妖艶ともいえる魅力を醸し出していた。


 こればっかりは仕方ないと諦めるミナト。これはお約束的に絡まれるのかと思いきや、周囲の冒険者はちらちらとこちらを伺うだけで何もしてこない。不思議に思っていると別の声が聞こえてきた。


「ばか、見るな!あの男はヤバいんだ…」

「え?」

「見るなって!殺されるぞ!?」

「赤ってことはF級だろ?」

「だから見るなって!」


 なんか物騒なことを言っている。そしてまた別の方向から…、


「B級のダミアンのことを知らんのか?」

「ダミアン?確か体を壊して引退したって…」

「違う!あのエルフの嬢ちゃんにちょっかいを出して男の方に半殺しにされたんだ…」

「ぴ?」

「F級だろ?」

「階級が上がるような活動をしていねぇらしい…。だが時々とんでもねぇ魔物の素材を納めるって話だ…」

「んなバカな…、ホラだろ?」

「ダミアンが半殺しにされた練武場での光景を俺はこの目で見た!本当にヤバかったぜ?ギルド職員もいたから確認するか?」

「…本当なのか…?」


 どうやら初めて冒険者ギルドを訪れたときB級冒険者のダミアンを【闇魔法】堕ちる者デッドリードライブで圧倒したことが影響しているらしい。


『なんか…、おれ…、凄く恐れられている?』

『さっすがミナト!恐怖で相手を怯ませる。順調に魔王への階段を駆け上がっているわね!』

『煩わしい争いがないのは良いことではないか?我があのようなむさ苦しい連中と交誼を持つことなどありえんが…』

『魔王じゃないんだけど…。しくしく…』


 たしかに変に争いごとにならないのは良いことだと思えるが、納得できないミナトは心中でちょっとだけ泣くのであった。


 さらに次々と冒険者たちが入ってきて三十人程が集まる。どうやら三人から六人ほどでパーティを組んでいる者が多いらしいが、ソロの冒険者もいる。しかしミナト達に視線は送っても絡んでくる冒険者は皆無であった。


 しばらくして…、


「待たせたようですまない!」


 よく通る女性の声と共に会議室のドアが開かれる。同時に騎士服を着た女性が入ってきた。金髪のショートカットがよく似合う長身の美人である。瞳の色はブルー。年のころは三十台半ばか後半か…。鎧は纏っていないが腰に差した長剣はかなりの業物と見受けられた。


「おい…」

「副団長かよ…」

「ウッドヴィルの魔剣…」

「こりゃどえらい依頼か…?」


 周囲に声を聴くに彼女は有名人らしい。


「さっそく話を始めたい。君たちかつてウッドヴィル家からの依頼を行ったことがある冒険者だ。その条件を第一にしてギルドに冒険者を集めてほしいと願った。そして集まってくれたのが君たちだ。だから私のことを知っている者もいるとは思うが自己紹介はしておこう。私の名はカーラ、カーラ=ベオーザだ。ウッドヴィル家付きの騎士であるが公爵家が統括している王国騎士団の一つ麗水騎士団で副団長も務めている。だがこの場にはウッドヴィル家の騎士として立っていることを伝えておこう」


 どうやらかなり高位の騎士らしい。


『ミナト!この人なかなか強いわよ…』

『うむ。人族にしてはかなりの修練を積んでいるな…』


 二人からそんな念話が飛んでくる。


『そうなんだ…。おれと比べてどれくらい?』


『剣術ではミナトに勝ち目はないと思うわ。瞬殺ね。だけどミナトが魔法を使うなら一歩を踏み出す前に瞬殺されてしまう程度かしら…』


『それって強いの?』


『ミナトは自分の魔法の強さをキチンと自覚しないとダメよ?』

『そうだぞ!我でも一秒と持たぬほどにマスターの魔法は強力なのだからな?』


 そんなことを言われても困ると思うミナト。しかしカーラというこの騎士が剣の達人らしいことは理解した。そんな風に念話で会話していると…、


「では今回の護衛任務を依頼する価値があるかを試させてもらおう。練武場に移動して私に君たちの強さを見せてくれ!」


 そういう展開になるのか…。これもまたテンプレらしいと思うミナトであった。

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