第95話 ソルティ・ドッグ完成
「と、とにかく!休日だしこれからカクテルを作ります!」
恐らく日本で目にすることは絶対にできないであろう美人二人からの誘惑を【保有スキル】泰然自若の力を使うことなく根性で振り払ったミナトは二人を前にそう宣言する。
「ふふ…。楽しみだわ!」
「うむ…。楽しみだ!」
カウンターの座席にとてもいい笑顔で腰を下ろすエルフとドラゴン。きっとこの二人と一緒に過ごせているのはとても幸運なことなのだと改めて思うミナトは一本のボトルを用意する。
「これを使ってカクテルを作ります。さっぱりするカクテルだよ。これを飲んでもらいながら商業ギルドで調べてきた内容を聞いてもらおう」
取り出されたボトルには透明の酒で満たされており、ラベルにはサソリが描かれている。
「ウォッカね!大好きよ!」
「ブラッディメアリーは傑作だったからな!期待してしまうぞ!」
輝くような笑顔になる美形二人。この店のウォッカは北方から持ち込まれたものが三種類。
「そしてこれを使います」
そう言ってロックグラスと共に取り出したのはレモンとグレープフルーツと塩。レモンとグレープフルーツはレッドドラゴンの里産の逸品。塩はマルシェで手に入れた天然の
「レモンとグレープフルーツと塩?」
「塩を使うのか?」
二人がそろって首を傾げている。
「ふふ…、こうするんだよね…」
ミナトはそう呟くとカクテル作りに取り掛かる。
とりあえず小皿を取り出してそこへ均等なるように塩を振り広げた。二人の頭に疑問符が浮いているようだが、ここはそのまま見てもらうことにする。グレープフルーツは絞って果汁を取り出した。
次に半分にカットしたレモンの切断面でロックグラスの縁を拭う。そのロックグラスを逆さまにし、縁を小皿に広げておいた塩へと付け、グラスを回して縁全体へ塩を均等に付けてゆく。グラスの底を叩いて余分な塩や砂糖を落としたら、スノースタイルの完成だ。
「すごい…」
「このようなことをするのか…」
二人の感嘆の声を耳にしながらもミナトのカクテル作りは続行される。
そのグラスに氷を入れバースプーンで軽く回してから余分な水分を切る。そこにジガーとも言われるメジャーカップを使ってウォッカ四十五mL、グレープフルーツの果汁六十mLを注ぎステア。それを二杯。そうしてカクテルが完成する。
「どうぞ。ソルティ・ドッグというカクテルです」
ミナトの言葉と共にシャーロットとデボラの前にグラスが置かれた。
「ミ、ミナト?これってどうやって飲めばいいのかしら…?」
「マスター?この塩はどうすればいいのだ?」
スノースタイルのグラスを見るのは初めての二人が困惑気味に聞いてくる。
「これはスノースタイルって言ってグラスの縁に塩を付ける技法なんだ。そのままグラスに口を付けて塩ごとカクテルを飲んでみて。名人が作ると塩が立つって言われたりするけどどうかな?」
ミナトの言葉になんとなく頷いた二人は恐る恐るソルティ・ドッグを口へと運ぶ。その美しい唇がグラスと触れる。その姿は二人ともとても魅力的だ。『ラノベでいうところの目福?目の保養?目に栄養?ってきっとこんな感じだ』なんて思っていたりするミナト。
「美味しい…。塩加減とウォッカ、グレープフルーツの相性が抜群ね…。そしてさっぱりとしてとても飲みやすい。こんな飲み方があるなんて考えもしなかったわよ!さすがミナト!」
「ふーむ…、素晴らしい…。同じウォッカを使ったブラッディメアリーとは全く異なる味だが、これも非常に美味い。このような組み合わせもあるのか…。カクテルというのは本当に奥が深いのだな…」
どうやら気に入ってくれたらしい。
「気に入ってくれたみたいで嬉しいよ。そのまま同じ場所から飲んでもいいし、もう少し塩味が欲しければ飲む場所を少しずらせばいい。そんな感じで楽しむカクテルかな…」
ミナトの言葉に頷く二人はとても美味しそうにソルティ・ドッグを堪能している。
「ちなみに同じ材料で酒をジーニ…、ジンを使って塩も加えてしまってシェイクしたものはクラシック・ソルティ・ドッグって呼ばれているよ。飲んでみる?」
ミナトの言葉にシャーロットもデボラも反応する。
「ジーニでも同じようなカクテルがあるのね?飲んでみたいわ!」
「面白い…。味比べをさせてもらおうか!」
二人の輝く笑顔につられてミナトも笑顔になる。
「よし、そっちも作ってから今日あった話を聞いてもらうことにしようか!」
「おっけーよ!」
「了解した!」
楽しいひと時は今しばらく続くのであった。
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