第93話 商業ギルドのサービス
あれから数日が過ぎ…。夏真っ盛りの王都、日中は暑い日差しが降り注ぎ、夜は比較的過ごしやすい。そんな日々が続いている中、Barの休日であるこの日、ミナト達の周囲には特に何も起こっていなかったし、情報集めの方にも進展があったとは言えなかった。
自店でワインを楽しんだ翌日、冒険者ギルドを訪れたミナトとシャーロットはミリムから冒険者ギルドへ書状が届けられたことを知った。それによると彼女はジャイアントディアーに襲われ命からがら逃げだしたが道に迷ってしまいそこをミナト達パーティに助けられたということで、護衛の冒険者達とは逸れてしまったと報告された。ミリムから冒険者ギルド経由でこういった場合…、遭難者を発見し戦闘もなく救助を行った場合の相場としてディルス金貨十枚、約十万円がミナト達の報酬として支払われた。
本来ならば、護衛の冒険者の安否を確認し、不明の場合は行方探索の依頼がギルドから出されることが通例らしい。しかしながらミリムがジャイアントディアーに遭遇したことも護衛の冒険者の行方についても表立って情報共有されることはなく、有耶無耶にされてしまった。
このことでミナトは冒険者ギルドの誰かがスタンレー公爵タルボット家かバルテレミー商会につながっていることを確信し…、彼は本日、商業ギルドを訪れた。
冒険者ギルドでは深い詮索をしなかったミナト達だが、商業ギルドには商人を志す者たちへのサポートの一環として、金銭を対価に商売に関連する様々な情報を提供してくれるというサービスがあると知ったのだ。手練れの商人はこういったサービスは使わず独自のルートでもっと深い情報を得るようだが、そんなことに構わないミナトは情報料が金貨一枚からであると聞きここを訪れることを決めたのである。
受付で話をするとミナトが知りたい今後予定されている貴族の婚礼とそれに影響される政策についての情報は金貨一枚との回答をもらい専用のブースへと案内された。ちなみにこの日のシャーロットはBarでお留守番、デボラはウッドヴィル家の監視だ。
「エンシェントトレント製のこの店が私の結界付きできちんと戸締りをしたなら、何らかの影響を与えることが出来る存在などこの世界に数えるほどしかいないし、侵入はまず不可能ね!」
というのがシャーロットの評価であるが、ちょっかいを出して来たらその後を追跡して何らかの情報を得ることが出来ると考えたミナトはシャーロットに留守をお願いしたのである。
専用ブースに通されたミナトを待っていたのは、
「えーと…、近々、予定されている貴族の婚礼とそれに影響される王国の政策について…、でしたね…」
丸メガネをした可愛らしい獣人の職員さんが担当してくれた。耳の形から察するに犬の獣人らしい。
「はい。酒場で貴族の奉公人みたいな連中からそんな話を聞いたので何か商売のチャンスにならないかと…」
返答として思ってもいない台詞をなんとか口から編み出すミナト。情報収集は大変だと心から思う。
「夏から秋にかけては貴族の婚礼は珍しいのです。婚礼のほとんどは流通の滞る厳しい冬が終わるのを待って、暖かくなった春に大々的な婚礼の儀を催すのがルガリア王国の通例ですので…。ですが…、ええっと…、たしかこの辺りに…」
そう言いつつペラペラと分厚い資料を捲っていた職員さんはとある場所でその手を止めた。
「そうです!この話がありました!」
突然声を張り上げる。一応、周囲には防音の魔道具が作動しているので問題はないが少しだけ迷惑そうにするミナトである。だがそんなミナトを気にすることなく職員は
「こちらをご覧ください!」
興奮気味でそんな言葉と共に一枚の新聞記事をミナトへと差し出す。新聞はこの世界でも発行されているらしかった。
「拝見します。えっと…、なになに…?」
そこにはとある二つの侯爵家で縁談の話がまとまったとのニュースが載っていた。なんでも妻を娶る侯爵家の次男は文官として非常に優れた才能をもっており、それなりの年齢でこれまでに極めて高い実績も残していたことからルガリア国王はこれを機にこの者を辺境伯へと任ずることを決めたというのだ。侯爵家の次男が辺境伯とはかなりの出世といえるのだが、記事の中では彼のこれまでの実績を考えれば決して不可解なものではないと記されている。
肝心の領地は南の国境沿いとなる未開拓の土地で肥沃ながら各中心都市から距離が遠いためこれまで上手く発展させられなかった土地らしい。彼の能力であればそんな土地でも人と物を誘致し、発展することが出来る可能性があるのではということが記事に書かれていた。
『辺境伯って武力で外敵から国を守るってラノベではそんな設定が多かったように思うけど…』
文官が辺境伯に任ぜられることにそんなことを考えたミナトだが、続きの記事ではそのことにも触れられていた。国家間の大きな争いどころか小競り合いも起きていない現在の安定した大陸では文官が辺境伯になることも問題ないといえる。そしてその土地に配備されていた大量の騎士たちも家族のもとに帰ることが出来る…、と。
どうやら未開の土地であることから戦争が起きればこの国への進入路にすることができなくもないという状態であったため軍閥主導で国境の警備に多額の予算が充てられていたらしい。しかし国王はこの出費を嫌い南の土地を発展させることで国庫を潤わせ、戦のないこの時代の軍事費を削減することを計画したのでは…、と記事には書いている。
そしてそれを主導したのが…、記事にはミルドガルム公爵ウッドヴィル家の名前と紋章が載っていた。
『こうなるか…、スタンレー公爵タルボット家は確か武官を束ねている…。当然、面白くないよね…』
ミナトは心の中でそう呟く…、それと同時に、
「この記事に関してもう少し詳しい資料はありますか?」
そう獣人の担当さんに訪ねるミナトであった。
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