第92話 とりあえずの方針を

 話が長くなってきたためミナトはシャーロットとデボラに二杯目のホットワインを作る。うっとりとした様子で二杯目も美味しそうに味わってくれる美形二人に作ってよかったと心から思うミナト。そんなほっこりとした雰囲気の中、彼らは今後のことを考える。


「ミナト、これからどうするの?」


「我もマスターがどうするかを伺いたいのだが…」


 シャーロットとデボラが聞いてくる。


「そのことだけど、バルテレミー商会がおれ達のことを探るらしい。あの不気味な男がシャーロットとデボラに興味を示したら商会長っぽい奴が調べてみると請け負っていたからね。恐らく冒険者ギルドを通してミリムさんを助けた冒険者に関して探りを入れるはずだ。あの冒険者崩れが問題なくミリムさんの護衛依頼を受けることが出来たことを考えるとバルテレミー商会と冒険者ギルドはどこかで繋がっていると思う。これはもう………、あー…、え…、えーと…?」


 ミナトは『これはもうウッドヴィル家の話じゃなくておれ達の戦い…』みたいなことを言うつもりだったのだが…。店内に立ち込める殺気と魔力を感じ戸惑いの表情のまま固まってしまう。


「ふふふ…、私を狙う…?面白い冗談ね。そんな愚か者はこの……、……年はお目にかかっていないわね…。この私を敵に回すことがどれくらい愚かしいことなのかを思い知らせる必要がありそうね…」


「くくく…、我を狙う…?ここまで我をコケにするとは面白い。この世界を構築する属性の一つを司る一柱がこうも侮られるとは…。その者たちの冥途の土産に真の業火を見せてやることにしようではないか…」


 二人の美しさはいつも通りの筈なのだが、据わった目に美しいことは美しいのだが真っ黒い笑みを浮かべてそんなことを呟いている。とてもではないが、『…年って何年?』とか『きっと彼らは君がドラゴンなんて知らないから』とか言える状況ではない。


「デボラ!バルテレミー商会に乗り込むわよ!相手を廃人にする程度の支配ドミネイションしか使えないゴミが私たちを狙う?笑わせるんじゃないわ!この件に関わった全ての連中に簡単に死ねることがどれくらい幸福なことかを骨の髄まで理解できてしまうほどの体験をさせてあげましょう!」


 物騒なことを言いながらシャーロットが立ち上がる。


「それは面白い!」


 デボラもそれに続くようだ。


「待った!!タイム!!ターイム!!」


 我に返ったミナトが発動した悪夢の監獄ナイトメアジェイルによる漆黒の鎖がシャーロットとデボラの動きを停止させる。それと同時に店内に充満していた殺気と魔力が霧散した。


「おお!さすがミナト!見事な魔法制御ね!」


「うむ!見惚れるほどの技術だ!」


 なんのことはないといった様子で、とびきりの笑顔と共にそう言われてしまうミナト。冒険者ギルドで武鑑ぶかんを調べたときと同様、またしても二人に揶揄からかわれたらしい。


「「フフフフ…」」


 いい笑顔で微笑み合う絶世の、傾城の、と形容される美女たち。その姿は目の保養に十分であるのだがこのようなやり取りは本当に心臓に悪いと思うミナトであった。


「何度も言うけどおれ達は悪の組織じゃないからね!それに黒幕はスタンレー公爵タルボット家だと思うけどそこの誰かまではまだ分かっていない。それ以外を滅ぼしても黒幕が別の誰かにモーリアンさん達の暗殺を依頼したら意味がないんだよね。バルテレミー商会がちょっかいを出してくるならもうウッドヴィル家だけの問題でもないし、首を突っ込んだおれ達としては事情と黒幕を特定してこんな計画を考える連中を根絶やしにしてやろうって言おうとしていたんだよ?」


 かつて日本のテレビで見た天下の副将軍の如くここは待ちの姿勢をとろうと説明するミナト。


「ミナトがそう判断するなら私に反対する理由はないわ!ミナトの言うようにちょっかいを出されて黙っているほど私は優しくないしね」


「我はマスターの判断に従うだけだ!だが我を狙うということが何を意味するのかは教えておきたいところだがな…」


「え、えっと…、ふ、二人ともありがとう。でもお手柔らかにね…?」


「「フフフフ…」」


 笑顔はいつも通り美しい、そして賛同してくれるのはありがたいが、何かちょっとだけ物騒なオーラが見えるような気がしたミナトであった。


「だけどいろいろと調べている間にウッドヴィル家の人に何かあると困るから、できればウッドヴィル家から護衛の依頼とかがあるとちょっとは楽できそうだけれど…」


「とりあえず冒険者ギルドや商業ギルドで情報を集めながら、ウッドヴィル家からの依頼待ちかしらね?」


 ミナトの言葉にシャーロットがそう返す。


「念のためデボラか他のレッドドラゴンさんにウッドヴィル家の屋敷は見張ってもらおうか…。ミリムさんは警戒して不用意な外出はしないってあいつらは言っていたけど…」


 デボラ以外のレッドドラゴンたちもミナトにテイムされており現在は眷属として彼の支配下にある。優しいミナトは『マスター!何か命令を!』の要求に『レッドドラゴンの里産フルーツとドライフルーツを頂戴』くらいのお願いしかしたことはなくレッドドラゴンたちはこれまで通りの穏やかな暮らしを継続していたが、何か手伝うことがあれば命令してほしいと常々言われていたのだ。


「承知した!我が一族に任せてもらおう!」


 こうしてミナト達はスタンレー公爵タルボット家、バルテレミー商会、名前は分からないが危険な思想をもつ集団を相手にとりあえずの方針を決めるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る