第91話 魔王を崇める者とは

 ホットワイン、チーズ、ドライフルーツを楽しみつつ、ミナトは報告を続ける。


「ふぅん…。それにしても自白を強要する魔法って…、嫌なものを見てきたわね。きっとそれは支配ドミネイションと呼ばれる光魔法の一種だと思うわ」


 ミナトから自白を強要する魔法をかけられた冒険者崩れの様子を聞いたシャーロットはそれが光魔法の一種だと言った。


「光魔法?でもかなり物騒な魔法だったよ?光魔法のイメージって…」


 ミナトがあの時の様子を思い出したのか嫌悪の表情を浮かべる。


「ミナト!別に光魔法だからって回復のイメージとか持ってない?光って言ってもそれはこの世界を司る六つの属性の一つでしかないわ。攻撃魔法もあるし支配ドミネイションみたいな精神に影響を与える魔法もあるのよ!」


「そうなんだ…。ところであれドミネイションが光魔法ってことはシャーロットも使えるの?」


 そう聞いてみるミナト。シャーロットの魔法レベルは闇属性を除いて全て八であり、その魔法を扱う技量は間違いなく世界屈指と言えるのだ。


「ええ。もちろん使えるわよ。だけど相手を痙攣させた挙句に廃人にするなんてことはしないわ。きっとそれを使った者のレベルは二…、どんなに贔屓目に見てもせいぜい三よね。未熟なレベルのまま身の丈に合わない魔法を行使するから相手が廃人になったりするのよ」


「シャーロットが使うならあんな感じにはならないってこと?」


「その通り!私が支配ドミネイションを使うのであれば対象は支配ドミネイションをかけられたことに気付くことが出来ないと思うわ」


「そ、それは…」


 ミナトは引き攣った笑みで返す。デボラも若干引いているようだ。シャーロットであれば知らないうちにその辺りの人を洗脳することが出来るらしい。その麗しい見た目とは決して一致しない凄まじいまでの実力である。


「ぷぅ!ミナトだけじゃなくデボラまで!そんな引かないで!私は支配ドミネイションは使えるけど、余ほどのことがあってもまず使用することはないわ!」


 可愛らしく頬を膨らませる様もまた一枚の絵画にしたくなるほどの魅力に溢れていた。


「どうして使わないの?」


 そんなミナトの問いに、


支配ドミネイションはね。かける術者の精神にも影響を与えるの。誰かを支配する魔法は邪法と呼ばれる部類の魔法で、こういった魔法は使う側の精神を徐々に蝕んである種の狂気に駆られ、その人格を破綻させる。どう壊れるかは本人の資質に影響されるらしいけどね。だから私は使わない。その気味の悪い男って奴が躊躇なく支配ドミネイションを使っているのなら相当にヤバい奴だと思うわ」


「確かにそんな奴だった…」


 シャーロットの予想にミナトはその通りだと同意するのであった。


「あと気になるのはそいつが魔王を崇拝しているようにミナトは感じたのよね?」


 シャーロットは気味の悪い笑みを浮かべた男のことが気になるらしい。


「ああ。冒険者崩れのリーダーが魔王って口に出した瞬間に不敬を咎めるように激高して焼き殺していた…」


 ミナトの回答にシャーロットは目を閉じて考え込んだ。


「………そんな過激な魔王崇拝者ってことは…、それって…、まさかとは思うのだけど…」


 そんな呟きが漏れてくる。


「シャーロット様!かつて魔王がこの世界を滅ぼそうとしたのは二千年前のこと。この大陸に生きる人族にとっては遥か昔の出来事であるし、エルフやドラゴンといった長命な種族にとっても長い年月だ。そして魔王は完全に滅んだことは間違いない。それと時を同じくしても一人残らず滅ぼされたはずだ!」


 デボラがミナトの知らない時代の話をする。


「デボラの言う通りなのよね…。ミナト、かつて魔王と呼ばれた存在は今から二千年前にこの大陸を滅ぼすため全種族を巻き込んだ戦争を始めたの。最終的に魔王は完全に息の根を…、じゃなかった完全に滅ぼされたわ。でもその戦争の最中、魔王を崇拝する人族の集団が大陸のあちこちに出現したのよ。この世界に不満を持つ者たちがいて…。彼らは魔王が世界を滅ぼすほどにこの社会を変えてしまえば、彼らにとって生き辛いこの世界はきっと今よりよい世界になる…、だったかしら…。大体そんなお題目を掲げていたわね…」


「そういった連中のなかで信じられないほど過激で残虐な行いをしていた者たちがいたのだ…」


 シャーロットの説明にデボラが続く。ミナトはシャーロット達が二千年前からこの世界にいることを確信しているが、シャーロットは昔の話をすることを極端に嫌う…。だから今もその話題に触れることはしない。


「そう…。なんて言ったかしら…、確か…、東方魔聖教会連合…。どうしようもない連中だったわ。その思想が二千年間どこかで受け継がれていたってことかしら…。私の単なる予想でなんの根拠もないけどね…。だけど支配ドミネイションを平気で使って魔王を崇拝しているっていうとそれくらいしか思いつかないのよね…」


 どうやらミルドガルム公爵ウッドヴィル家の人々を護るためには、スタンレー公爵タルボット家、バルテレミー商会に加えて危険な思想をもつ集団も相手にする必要がありそうであった。


「これもまたテンプレの流れかな…」


 ミナトは溜め息交じりにそう呟くのであった。

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