第90話 パートナーと従業員は心配する
シャーロットは両手で、デボラは片手でホットワインの注がれたマグカップを手に取ると二人はゆっくりとカクテルを口へと運ぶ。
「温かくて美味しいわ…、そしてこの香りがとても素敵…。ホッとする味ね。カクテルにはこういった温かいものもあるのね…」
マグカップを両手で持ってそう話すシャーロットは普段の快活さや聡明さよりも可愛らしさが強調されておりその麗しい見た目と相まってその魅力は計り知れない。
「ふ~む…。ワインと香辛料の織り成す香りが素晴らしい…。こういう飲み方もできるのだな…。ほう…、このシナモンスティックもなかなか…」
ほっこりしているのだろうか…、ホットワインを一口飲んだ後に取り出したシナモンスティックを咥えて香りを楽しんでいるデボラの姿はいつものきりっとした佇まいよりも少し柔らかみがあり、その傾城の美女と表現できる魅力は、可愛らしさの点から言わせてもらうのであれば普段のさらに二割り増しといったところである。
「……………」
そんな美人たちの様子を黙って眺めているミナト。
「ミナト?どうしたの?」
「マスター?」
「……………いい…」
そんなどこぞの空賊の息子が言うセリフが自然とミナトの口を突いて出た。
「え?なに?」
「?」
二人が首を傾げる。
「い、いや…、いやいや…、な、何でもないよ…」
赤い顔で狼狽えるミナト。妙に初々しい反応をする自分を不思議に思う。日本にいたとき年齢は三十九だったのだが、どうやら行動や人格が若くなった現在に引きずられているらしい…、が転生した事実を受け入れると心に決めたミナトはそのことに疑問を持たなかった。もしかしたらこれも【保有スキル】泰然自若の効果かもしれない。
「そ、それよりもあの黒装束達だけど…」
話を逸らしてミナトは黒装束で襲い掛かってきた連中を追跡した結果を報告することにした。シャーロットもデボラも身を乗り出して興味を示してくれている。
ミナトは何らかの婚礼と政策に絡む形で、モーリアン=ウッドヴィルとミリム=ウッドヴィルを殺害する計画があり、先日のモーリアン襲撃もそれに関係した事件であったこと。
ミリムを襲ったジャイアントディアー五体は
バルテレミー商会の執務室と思われる場所に商会長らしき人物に加えて、気味の悪い笑みを浮かべた男と以前モーリアン=ウッドヴィルを襲った者たちのリーダーの二人がいたこと。そしてその気味の悪い笑みの男から冒険者崩れのリーダーが自白を強要するらしい魔法をかけられ情報を抜き出されて挙句に廃人寸前にされ、ミナトの発した『魔王っていうな…』の言葉に激高した気味の悪い笑みの男に焼き殺されたこと。帰り際に攻撃魔法を受けたのでバルコニーを叩き落したことまでを説明した。
「ミナト!結構大変だったみたいだけど大丈夫だった?」
「マスター!無茶をしたのではないだろうな?」
話を聞いたシャーロットとデボラが心配そうにそう問いかけてくる。
「ああ、大丈夫だったよ。結構いろいろあったけど【保有スキル】泰然自若のおかげかな…。心が重いとかそういったのは感じてない」
ミナトの返答にシャーロットがため息をつく。
「そのスキルに感謝ね!私たちはそういったものに慣れているけどミナトは…、あなたの闇魔法は凄いけど戦闘経験は浅い人族なんだから、いきなりショッキングな光景を見たらトラウマになると思うわ」
本当に何も影響がなかったのだが、シャーロットはなおも心配そうである。
「もし何か不調を感じたら言うのよ!同族のこういった死を目の当りにするのはそれくらい衝撃があるものなの!パートナーなんだし遠慮なんかしたら許さないんだからね!」
絶世の美形に本気の表情を浮かべたシャーロットにミナトはびしっと指を突き付けられる。
「心配してくれてありがとう。何か不調を感じたら必ずシャーロットに言うことにするよ」
「分かればよろしい!」
スレンダーながらに形の良い胸を大きく張って笑顔でそういうシャーロットと、
「マスター!我もマスターの僕としてマスターを護る使命がある。今度、無茶をするときは必ず我も同行するからな!」
シャーロットと同様に心配そうにしていたデボラがそれに続く。
「はは~」
二人が心配してくれていることに感謝し、彼女たちに出会えてよかったと心からそう思うミナトであった。
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