第86話 崇拝者ってテンプレかな?

 自白を強要される魔法をかけられた冒険者が話した内容とは…。


 ウッドヴィル公爵家の娘であるミリムとジャイアントディアーを残して大森林を脱出した冒険者たちは予定通り魔物使いテイマーの護衛をしていた。すると突然魔物使いテイマーが斃れたのでその魔物使いテイマーを数人の部下にアジトまで運ばせ、彼自身は大森林の近くで様子を窺っていたらしい。その次に彼が見た光景は無傷のミリムが三名の冒険者らしい者たちと帰還してくる姿であった。そこで彼とその部下たちが色めき立つことになる。


 冒険者三人の構成は男一人に女が二人。彼らの視線を釘付けにしたのは二人の女性冒険者。彼女たちの容姿は彼ら全員が目を見張るほどの美しさであった。そして冒険者達の装備は軽装であり、大した武器も持っていなかったことから、その姿はどう考えても冒険者になりたての駆け出しのそれと判断できた。駆け出しの冒険者をしている絶世の美女が二人。そんなものを見つけたとき、裏仕事をこなす冒険者たちの下衆な考えはいつの時代も変わらない。彼らは三人組の冒険者を襲撃することを即決していた。


 ジャイアントディアーにミリムを襲わせ、不運な事故に見せかけて殺害する、という計画は失敗したらしい。だが依頼として受けたミリムの誘導と魔物使いテイマーの護衛はしっかり行った。魔物使いテイマーが斃れ、ミリムが無傷という不測の事態は起こったがこれは冒険者たちの責任とは言えない。こういった時、裏稼業を生業とする者たちの鉄則はである。『最低限、ミリムの足取りを追うくらいはやってやろう…、幸いあの美女二人も同行しているからな…』、その時の彼らの中はそんな考えだったようだ。


「さあ~、もう少しですよ~。まだ大丈夫~、まだまだいけるはずですぅ~」


 痙攣している冒険者が血を吐いた。おそらく限界が近いのだろう。しかし真っ黒い生地に金色の稲妻のような模様が入ったスーツを纏っている男にとって冒険者の状態などしたる問題ではないといった様子で顔に笑顔を貼り付かせたまま魔法の行使を続行しさらなる言葉を引き出そうとする。


 既に自我を失っているであろう冒険者が語るところ、彼らはミリムとミナト達三人がウッドヴィル公爵家の屋敷へと帰還するのを見届けた。そしてしばらく屋敷を監視していると冒険者三人が出てきたので路地を進むミナト達を尾行していたところ戦闘になり、魔法を使う彼らに散々な目にあってここに報告に来たというところまでを吐露した。


「魔法とは珍しいですね~、どうやら駆け出しの冒険者というあなた達の判断にミスがあったということですね~。他には~?何か見聞きしたものはありますか~?」


『もう無理だろうな…』


 傍らで見ているミナトはそんなことを考える。どう考えても冒険者は限界だった。そんな冒険者は、


「魔王…」


 そんな単語を呟いた。


『え?い、いや…、確かに口走ったけどさ…』


 シャーロットとデボラに魔王弄りをされたミナトが思わず口に出した『魔王っていうな』という台詞。それが男の頭に残っていたのだろう。次の瞬間、男の全身が炎に包まれた。既に動くことさえできない程、脳にダメージを受けていた男はそのまま崩れ落ちるように床に倒れこむ。炎は男だけを焼き、周囲に影響を与えなかった。魔法の炎による攻撃らしい。


「下賤の者が偉大なる存在を軽々しくその口に上らせるとは…」


 顔に張り付けていた笑顔を一変させ憤怒の形相でそう呟く男。傍らにいた隊長は身を竦めて戦慄し、商会長は椅子に座ったままだが大量の冷汗がその背中を濡らしている。


『いま魔王のことを偉大なる存在って…。うわー、魔王を崇拝する者か…。スタンレー公爵タルボット家の誰かがミルドガルム公爵ウッドヴィル家のモーリアンさんとミリムの殺害を計画した…。そしてそんなスタンレー公爵タルボット家には魔王を崇拝するヤバいやつも絡んでいる…。魔王の崇拝者ってテンプレかな…?でもとりあえずは…』


 どうしてスタンレー公爵タルボット家の誰かがミルドガルム公爵ウッドヴィル家のモーリアンやミリムを狙うのか…、その理由が知りたいミナトであった。

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