第85話 気味の悪い男
大商会の建物に侵入したミナトは商会長らしき人物の執務室でそこに集まっている者たちの話を聞いている。【闇魔法】
必死になって状況を説明するミリムを護衛していたという黒装束を纏った冒険者の額はじっとりと汗がにじんでいる。執務机にどっかりと腰を下ろした商会長が放つ威圧感に怯えているようだ。
「ふむ…。公爵家の娘の護衛を引き受け、我々が用意した
そう言うと商会長が部屋の隅へと視線を移す。
「たとえ隠密の類が周囲にいても、隠密程度の戦力ではあの
誰もいない筈の部屋の隅に向かって商会長が落ち着いた声色で問いかけた。
「いや~、その筈だったのですがね~。んん~、どうやらこれはまたもや不測の事態というやつが発生したようですね~、こいつはおもしろい…、フ、フ、フフフ…、ハハハハハ…」
ふざけた調子で陽気な声と笑いが聞こえてきた…、と同時にいきなり部屋の隅から二人の人物が姿を現す。一人はニヤニヤとした気味の悪い笑みを浮かべた背の高い男だ。真っ黒い生地に金色の稲妻のような模様が入ったスーツを纏っている。この人物が先ほどの声の主だとミナトは直感していた。もう一人はそんな男に付き従うように姿を現したのは大柄な男である。ミナトはその男の姿というかその魔力に覚えがあった。
『こいつはモーリアンさんを襲った時におれが追跡した隊長だ…、ってことはこの商会とこいつが逃げ込んだスタンレー公爵タルボット家は繋がっている?』
そんなことをミナトが考えていると、商会長が口を開く。
「笑い事では済まないのですがね…。我らは利になると考えあなた方の計画に賛同しているのです。先日の先代公爵であるモーリアンの件もありますが…」
不服そうに口に出す内容はモーリアンの襲撃にもこの連中が関係していることの証拠を見せてくれた様なものであった。
「あれはこの者が珍しく失敗しましてね~。ボクの作品の中では上物だった筈なのですが…、全く…、使えない犬を飼うとストレスがたまるのですよ~。でも問題ありません~、次で成功しますから~。彼らにはし~~~っかりとお仕置きと指導をしておきましたからね~、もう失敗などしたくてもできないくらいですよ~。アハ、ハ、ハハハハハハ…」
表情に気味の悪い笑みを貼り付かせたまま笑い語る男の不快な言葉にミナトはとてつもない嫌な感触を覚えていた。男の傍らに控えている隊長は身を縮め怯え震えている。
『何だろう…?この嫌な感じ…。えっと………、思い出した!ウッドヴィル家のガラトナって執事さんの感じを何十倍にもしたらこんな嫌な感じになるはずだ…』
ウッドヴィル家で出会ったガラトナという執事をシャーロットは元暗殺者と評した。彼女曰く、人というか獣人、ドワーフ、エルフを含めて自らと似た種族を殺し続ける行為は魂を焼くと言われており、その焦げ付きはミナトが感じているような嫌な感触としてその魔力に現れるという。
『うわー…。こいつって何をやっている奴なんだろう…。絶対にお近づきになりたくないって感じだ…』
思わずジト目を向けてしまうミナト。
「まあ、あなたがそう言うなら私は従うことにしましょう。それがあの御方との契約ですからね…」
仕方がないといった風で商会長がため息とともにそう答える。『あの御方って誰?やっぱりタルボット家の人?』などとミナトは思っているが話は続けられている。
「フフ…、契約厳守~。さすが商人ですね~、そういうのは嫌いじゃないですよ~。ところで私はあなたに質問があります~」
気味の悪い男は執務机を挟んで向かい合っていた黒装束の冒険者に話かけた。
「な、何が聞きたい…?知っていることはもう…」
恐らく眼前の気味の悪い男が相当にヤバい人物だと冒険者も気づいているのだろう。狼狽えながらもそう答えた冒険者の言葉を人差し指を振って否定する。
「いえいえ~。まだ全てではないでしょう~?襲撃の予定時刻からこの報告まで時間がかかりすぎですよ~?ここに来るまでの間に何をしてきたのですか~?」
そう言われて冒険者が口ごもった。
『え…?そんな話が出るってことはおれ達を襲ったのは冒険者たちの独断…?』
冒険者の言葉にミナトも首を傾げる。
「言いたくないのでしたら言いたくなるように~」
男の全身から魔力が噴き出した。そして冒険者へ右の掌を向けると冒険者が白目を剥いてビクビクと痙攣し泡を吹き始める。
『魔法だ…。一体何の魔法を…?』
酷い光景が広がっているがミナトは落ち着いて周囲を観察する。【保有スキル】泰然自若が効いているようだ。
【保有スキル】泰然自若:
落ち着いて、どの様な事にも動じないさまを体現できるスキル。どのようなお客様が来店してもいつも通りの接客態度でおもてなしすることを可能にする。
「さあ~、答えなさい~。あなたはここに来るまでの間に何をしてきたのですか~?」
どうやら自白を強要できる魔法のようだ。だがこの魔法を受けている冒険者の様子から見てもう冒険者は助からないだろう。
「い、いい…。とても…、とてもいい女がいた…。こ、こ、公爵の娘と…、だ、だ、大森林から出てきた…。ぼ、ぼう、冒険者…」
どうやらシャーロットとデボラに目を付けて依頼の片手間に襲い掛かってきたらしい。それを耳にしたミナト…、それは魔法で自白を強要されている冒険者に向けられた少しだけの同情を打ち消すのに十分だった。
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