第83話 放たれる青白い炎

 ミナトは周囲を取り囲む二十人の黒装束達に鋭い視線を投げかける。夜の帳が下りはじめた王都の路地裏は既にかなり薄暗いのだが、ミナトは二十人の位置を把握できていた。


『全員が悪夢の監獄ナイトメアジェイルの射程範囲にいるせいか位置がとても正確にわかる…。シャーロット、デボラ、こいつらって先代公爵のモーリアンさんを襲った連中かな?どうしよう?一発で全員捕獲もできるけど…』


 ミナトがシャーロット達に念話を飛ばす。少しずつ包囲網が狭まってくる。


『正体は分からないけど、こんな連中を捕まえてもどうせ何も知らないか、なかなか口を割らないかのどちらかになると思うわ!そうなると扱いに困るし…、殺すのは嫌でしょ?そうするとミナトの闇魔法が知られることになる。私としてはそっちが嫌だわ!伏兵はいないみたいだし私とデボラで蹴散らすからミナトは【眷属魔法】の火竜の息吹ファイアブレスを弱く使って援護に回って!』


『我もその案に賛成だ。炎槍フレイムスピアと唱えながら手から帯状に炎を出せば能力を欺けるぞ!』


 二人の念話にミナトが無言で頷く。包囲されてから一言も口を利かない三人を黒装束達はどう思っているのか…。


『了解!おれは二人が蹴散らして逃げ出した後をこの前みたいに追いかけてみるとしようか…』


 ミナトも方針を固めた。


絶対霊体化インビジブルレイスって絶対に反則技よね…。よ!かつての魔王を片手の魔法で圧倒する真の魔王に至る者!フフフフ…』


『魔王の中の魔王を名乗っても問題なさそうだな…、フフ…』


「魔王っていうな!」

『あ、声が出ちゃった!』


「「「???」」」


 いきなり意味不明の言葉を叫んだミナトに黒装束達も虚を突かれたらしい。ほんの少し包囲網を狭める動きが鈍った。


炎槍フレイムスピア!」


 ミナトは自身の正面に位置したそんな黒装束三人程に向けて【眷属魔法】の火竜の息吹ファイアブレス炎槍フレイムスピアの掛け声とともに発動する。魔力を大して込めることなく発動…、の予定であったが、魔王いじりに反応したせいで込めた魔力がちょっと多めになるミナト。


 シャーロット曰く、炎槍フレイムスピアは帯状の炎を放つ魔法で、その特徴はある程度の範囲を炎で焼き尽くせることと貫通力が少ないことであるとのことだが…。


 ミナトも一応はそのイメージで発動しており、てのひらの幅くらいで帯状となった炎を前方の三人に叩き込むつもりだった。当たり所が悪ければ重症もありえるが致命傷にはならない攻撃。それを意識したのである。しかし、薄暗い路地裏の広場に発現したのは…、


『ミナト!やり過ぎよ!!』


『はははは!やはりマスターの魔法は素晴らしい!』


 そんな念話が聞こえてくる。ミナトの眼前には王都の路地裏を煌々と照らす青白い炎の濁流が十人以上の黒装束達を飲み込み始める光景が広がっていた。炎が触れた地面はあっという間にマグマのように溶けて燃え上がる。


『か、解除!解除!殺しちゃうって!』


 ミナトは慌てて魔法の発動を中止する。


「ひ、ひぃーーー!」

「助けてー!」


「「「「…」」」」


 直ちに発動を止めたので黒装束達に死者は出なかったようだが、炎に巻き込まれそうになった者たちは泣き叫びながら逃げまどい、残りの者はあまりの魔法の迫力に声を失って固まっている。


「そんなに呆けている余裕はあなた達にはないわよ!」


 シャーロットが風の魔法で黒装束達を吹き飛ばす。


「徒手空拳は我も得意とするところ!参る!」


 デボラの拳が黒装束の顔面を捉えると哀れ黒装束は路地裏に建てられた建築物の壁へと吹き飛ばされてそこにめり込む。


 次々に打倒される黒装束達。恐慌状態にある黒装束達などシャーロットとデボラの敵ではない。次々と仲間が倒れるのをやや距離を置いて見ていた黒装束の一人が手を挙げた。


「撤退!」


 彼のその言葉と同時に黒装束達が撤退を始める。動けないものは見捨てるようだ。恐らく何も知らない者達なのだろう。


『じゃ、ちょっと行ってくる!お店についたら戸締りをしっかりやっておいてね!絶対霊体化インビジブルレイス!』


 ミナトは念話でそうシャーロットとデボラに伝えると絶対霊体化インビジブルレイスと共に身体強化を発動。撤退を指示したリーダーらしき人物を追いかけ始めた。


『ミナト!気を付けてね!』

『帰りを待っているぞ!』


 美女二人によるとびっきりの笑顔によるエールを受けてミナトは夜の王都へとその身を翻すのであった。

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