第82話 帰り道で待つもの

「これでよかったと思いたい…」


 複雑な表情でミナトが言う。自身がテンプレ展開に巻き込まれているかもしれないことが嬉しいのか嬉しくないのか自分でもよく分からない。


「いいんじゃない?冒険者ってことで公爵家に関わることができそうなんだし…、冒険者ギルドでも言ったけど私たちが表立って力を振るわないのであれば公爵家と関わるのは難しかったわ。何を依頼されるのかは分からないけどね。でも貴族が冒険者へする依頼って言ったら…、やっぱり誰かの護衛か何かの運搬かしら…」


 そう美しい笑顔で言ってくるシャーロットは前向きだ。


「上手くいったと思うぞ。護衛依頼であるなら店の帰り道を陰ながら護衛するよりはずっと動きやすいのではないか?まだ先代公爵の護衛とは決まっていないが…」


 こちらも素敵な笑顔で言ってくるデボラ。彼女も前向きだ。


「ふう…。先代公爵はお客さんだしその孫娘のミリムさんとも知り合った…。いい感じの人達ではあったからね。おれ達にそこまでやる義務があるかは分からないけどウッドヴィル家への悪意があるなら何とかしてあげたいと思うけど…、二人はどうかな?」


 念のためそう聞いてみると、


「もちろん協力するわ!パートナーでしょ?」


「我がマスターの決定に反論を唱えることなどありえない。我は全力でマスターを手伝うぞ?」


 その言葉に嬉しくなるミナト。笑顔の二人へ、


「ありがとう」


 心からの感謝を伝えるのだった。


 ここは王都に張り巡らされている路地の一つ。公爵家の屋敷を辞したミナト、シャーロット、デボラの三人は店へと戻るため人通りの少ない路地をそんな話をしながらのんびりと歩いていた。夕日は随分と地平線の陰に隠れ始めており街灯の少ないこの辺りは既に随分と薄暗い。


 屋敷を辞する際、前公爵のモーリアンは、


「依頼を出すかもしれないが、その決定も含めて詳細は後日伝える」


 と言っていた。


「それにしても…、護衛の依頼とかだとまたテンプレの予感が…」


「ミナト、またテンプレ?」


「マスター、何が起こるのだ?」


 ミナトの呟きに二人が即座に反応した。


「い、いや…、おれ達ってF級冒険者でしょ。護衛の依頼とかされたらさ…、そんな階級の冒険者に護衛は務まらん!とかって公爵家の騎士とかが文句をつけてきて実力を示すために模擬戦をすることになるとか…」


 ありがちな展開を口にしてしまうミナト。フラグは立ったかどうなのか…。


「そんなのは勝てばいいだけだから問題ないでしょ?」


「その通りだと思うが、何か問題があるのか?」


 何を言っているのだといった風に二人が返してくる。


「い、いや…、そうなんだけどさ…」


 もしそんなことがあった場合の話ではあるが対人戦には消極的なミナトである。なぜなら、


「ミナトなら楽勝じゃない?冥獄炎呪ヘルファイアで一閃…?悪夢の監獄ナイトメアジェイルの鎖でひっぱたくとか…、堕ちる者デッドリードライブで自滅を待つなんてこともできるわよね?絶対霊体化インビジブルレイスで姿を消して死角からの一撃とか…?」


「どの方法もオーバーキルだよね?それに死角からの一撃で負けるとその敗北を騎士は認めなさそうでさ…」


 最高に美しいが悪い笑みを浮かべて闘い方を提案するシャーロットにぐったりしながら返すミナト。ミナトの使う【闇魔法】は凄まじい威力を誇るがそれゆえに対人戦では加減が難しいし、どうも暗殺に向いているようなものが多くテンプレで登場する騎士はそういう魔法に嫌悪感を示す気がするのであった。


「【眷属魔法】の火竜の息吹ファイアブレスで一掃という方法もあるが…?」


 デボラまでが悪乗りする。シャーロット以上に凄絶な笑みを浮かべるその姿は間違いなく美しいはずなのだがミナト以外では恐怖で竦み上がってしまうかもしれない迫力があった。


「できれば穏便にすましたいんだけど?」


「「ふふふ…」」


 内容は物騒ながらも楽しそうに会話をする三人はゆっくりと歩みを進める。周囲に人影はない。そうしてやや開けた広場のようなところに出た。


『ミナト…』

『マスター…』


 シャーロットとデボラの二人がそんな念話を飛ばしてくる。


『ああ。公爵家の屋敷を出てからずっと…。ここで仕掛けてくるのか…』


 とミナトが念話を返した時、ミナト達三人を取り囲む形で黒装束を纏った二十の影が姿を現すのだった。

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