第81話 あれは未だに継続中

「さてと…。ミナト殿たちに孫を救ってもらった礼を述べるため来て頂いたのに、さらなる恩が積み上がってしまったようだ…。あのカクテルという飲み方を当家に教えて頂き本当に感謝する。私としてはブラックカラント酒の新たな飲み方…、新たな特産品として先ずは我らの本領ミルドガルム領の中心であるアクアパレスで広めたいと思う。我が息子にもそう伝えるつもりで…」


 そうミルドガルム公爵ウッドヴィル家の先代当主であるモーリアン=ウッドヴィルが話し出す。ここは最初に通された応接室。厨房でカクテルを楽しんだミナト達は改めてのお礼がしたいとのモーリアンとミリムの意向により再びこの応接室へと移動していた。レシピはきちんと料理人達に教えてきた。きっと今頃は試作のカクテルで大盛り上がりをしているだろう。


「えっと…。とてもいいことだと思います…」

『やっぱりこの人たち悪い人ではないよね?大貴族だし…、おれみたいな庶民が主張するかもしれないカクテルの権利なんて気にする必要がないはずだし…』


 笑顔を浮かべてモーリアンに返答しながらそんな念話をシャーロット達に飛ばすミナト。


『そうね…。貴族相手の権力闘争や暗闘とかはきっと普通にいろいろとやるかもしれないけれど、貴族の矜持ノブレス・オブリージュはあるみたいね…』


『人族は良い者も悪い者もいる…。我はそれほど人族と接点をもつ魔物ではないが、貴族と呼ばれる者たちの中ではまともな者達なのでは…?』


 シャーロットもデボラも少なくともウッドヴィル家の先代と孫娘には特別に悪い感情があるわけではないようだ。


『できれば現当主もまともな人であってほしい…』

『そう願うわ!』

『同じく!』


 そんな話を内々でしているとモーリアンの話はお礼の具体的な内容へと移っていく。


「そこでミリムをジャイアントディアーから護ってくれたことに関する礼なのだが…」


 その言葉にミナトは遠慮をすることなしに己の希望を口にする。


「でしたらブラックカラント酒を定期的に仕入れさせて下さい!ブラックカラント酒に出会えたことは本当に幸運でしたので…」


「そんなことでよいのか?それでは何の礼物も渡していないことと同じになってしまうが…」


 戸惑いを見せる先代当主。


「おじい様!冒険者ギルドに事の次第を説明して私が置かれた状況で緊急の護衛依頼を出した時の依頼料を算定して頂きましょう。その金額をミナト様達にお渡しするのはいかがでしょうか?」


 その様子を見たミリムがこのように提案してくる。ミナトとしてもなかなかに納得できる意見だと思われた。


「ふむ…。冒険者ギルドには今回逃げ出した冒険者を不問にする代わりに今後このようなことがないように釘を刺しに行くつもりであったが…、ミナト殿、それでよいかな?」


 モーリアンの言葉に頷いてみせるミナト。


「ありがたく頂戴したいと思います」


 ミナトの言葉にモーリアンが笑顔になる。


「分かった。冒険者ギルドに確認次第、報酬としての金を貴殿の店に届けることにしよう。後ほど当屋敷でブラックカラント酒の管理をしているものを呼ぶので仕入れに関してはその者と交渉してほしい。取引を行うことは決定事項とだと伝えておくので金銭面だけ確認してほしい」


「承知しました」


 ミナトは心でガッツポーズを決めている。


「あの二種類のカクテルについての礼物は少し時間を頂きたい。改めて連絡させてもらうことになるが構わぬか?」


「それで問題ございません」


 これでどうやら話は一区切りとなるようだ。


『そろそろお暇するところかな…』


 そう考えていたミナトは視線の端に何やら考え事をしているミリムの姿を捉えた。


「おじい様!ミナト様達の冒険者階級はF級と伺っていますが、大型のジャイアントディアー複数を瞬く間に斃すことが出来る程の力を持った冒険者です。そして私たちに危害を加える意思がないことは明らかとは言えませんか?先ほどのシャ-ロット様の魔力操作を拝見するに、我らを襲撃、殲滅するのはいつでも可能なはずなのにそれをしていないのがその証拠です!」


 ミリムの言葉にモーリアンの表情が引き締まる。ミリムが何を言いたいのかを観察しつつ、初めて見るその厳しい表情にこれが先代公爵の真剣な表情なのかと考えるミナト。


「ミリム…。何が言いたいのだ?」


「これほど信頼を置くことができて高い実力を持った冒険者の方と縁をもつことは公爵家としても簡単ではありません。ここはミナト様達に協力をお願いしませんかと言っているのです!きっとお父様たちも分かってくれると思いますわ!」


 貴族を助けることがきっかけでいろいろなことに巻き込まれる…。


『これって…』


 テンプレ展開が未だに継続されていることを感じてしまうミナトであった。

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